107.5話 アリス・イン・ワンダーワールド ~地図にない星~

 各国の戦闘用アーティファクトおよそ10万機が、彼らを打ち滅ぼすべく惑星グリスに集結していた。

 国連の上役達は終戦の条件として、戦争のために開発したアーティファクトをぎゃらくしーずもろともこの世から消し去り、歴史に残さないと決めたのだ。


「帝国軍のだけでなく……味方のはずの共和国のアーティファクト達まで……」


「ニアが修理した以外の世界中の戦闘用アーティファクトがここにいるね」


「この星でアタシらと相討ちさせて、まとめて全部処理させる気だな……。あの野郎、戻ったら今度こそぶっ飛ばしてやる!」


「全員のシンクロ率も安定してる。アリス、いつでもいけるよっ」


「丁度お腹が空いてきた頃に来てくれるとは……! 食べちゃダメなのある?」


「大丈夫、全部通信不可の無人機みたい」


「なら、遠慮はいらねぇな!」


「フィルとぼくは全力でアリスを守るから、前衛は任せたよ!」


「「「了解!」」」



 彼らが船外へ飛び出すのと同時に、5体と一人と、10万機の戦いが幕を開けた。


 ぎゃらくしーず達の個々の戦力は凄まじいが、その強さの根源は、セシリアを持つアリスの指揮によるところが大きい。


 ぎゃらくしーずメンバーとアリスのシンクロ率が100%に達した際に、彼らの能力は最大限発揮されるが、これまでに同時シンクロしたのは多くて2体までだった。

 同時シンクロ、彼らはそれを"調律チューニング"と呼んでいたが、セシリアの本体であるナノマシンの影響でアリスの身体に負担がかかり過ぎるため、調律チューニング自体をロムが控えさせていた。


 しかし、今回の強襲を生き抜くには全員と同時シンクロをしてもわずかな確率しかなく、ロムは泣く泣くアリスの意見を尊重したのだった。


 10万機のアーティファクト達をおよそ半分破壊した頃、戦闘開始から1時間程しか経っていなかったが、限界が先に訪れたのはアリスの身体の方だった。


 激しい戦闘の中、突然アリスが倒れた。

 全員の問い掛けに答えられない程、彼女の意識は朦朧もうろうとなり、指揮が失くなった彼らは徐々に押され始める。



「ぼくのせいだ……やっぱりこんなの無茶だったんだ……」


「落ち着けロム。あの時、アタシら皆で決めただろ? 1にアリス、2にアリス。お前はアリスを連れて、こっから逃げろ」


 半分も倒したんだ、あとはアタシらだけでもやれるさ、とローズ。


「ニア、聞こえてたか? アリスとロムの、脱出の援護だ! 特大のをぶちかませ!」


「了解! フィル、エナジーシードを!」


「はいです!」



 ロムは残った全員にすぐ戻ると伝え、アリスと共に惑星グリスから離脱した。


 アリスはとぎれとぎれの意識の中、激しく揺れる船内で船を必死に操縦するロムと、ぎゃらくしーず達の信号が一つ一つ消えていくのを感じた。


 それから数時間後。

 歩いて3分で一周出来るほどの、とてもとても小さな星にアリスはいた。

 恐らく不時着したであろう宇宙船の中で、メッセージの通知を告げるモニターを眺めていた。


 数時間前まで船内にいたはずの、小さな人形からのメッセージ。

 セシリアも失い、マップに存在しない小さな星で一人、モニターを眺めていた。

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