107.5話 アリス・イン・ワンダーワールド ~最後の救難信号~

 それは、とあるよく晴れた日の事だった。


 見渡す限りの草原に、白衣の男と銀髪の少女と5体のアーティファクト。

 人目に付かぬようにとギルフォードが指定した場所にそれぞれが集まった。



「こらー! ニア! ぼくのアリスに勝手に触るんじゃない!」


「よいではないか、よいではないか」


「ドクター、この人形みたいな姉ちゃんがアタシらの新しいボスなのか?」


「そうだよ。ほらニア、落ち着いて。まずは自己紹介をしないと」



 アリスは、少し照れながら、人形さんに人形みたいと言われちゃった、とギルフォードに笑いかける。

 彼女の頬に触れたがるニアと、それを引き剝がそうとするロム。

 疑いの眼差しを向けるローズに、ギルフォードの後ろに隠れるフィル。

 そんな彼らをよそに爆睡をかますジッド。


 この瞬間から、世界に平和を取り戻す冒険が始まった。

 以後、人々に語られることのない伝説が、この日から始まったのだ。




 ギルフォードが彼らに依頼した"慈善活動"は多岐にわたる。

 人命救助はもちろんのこと、荒廃した星の復興、潜入任務、あるいはアーティファクトとの戦争に至るまで。

 始めこそ秘密裏に活動していたが、各地で行動を起こす度に、彼らの存在は世界中に広まっていった。


 アリスが胸に灯した平和への志は、彼らと触れ合った人々にも灯されていき、彼らに加担した共和国連合は瞬く間に勢力を強め、抗おうとする帝国軍は次第に力を失くしていったのだった。


 自称"ぎゃらくしーず"の活動開始から終戦までは、わずか半年程。

 その間彼らが救った生命いのちは数知れず。


 ギルフォードや、アリス、そしてぎゃらくしーずのメンバーが思い描いた戦争のない世界へと、着実に向かっていっていた。


 終戦協定がようやく結ばれる一週間前。

 それは起きた。


 ぎゃらくしーずがその日の任務を終え、拠点へと帰る途中、主要な星々から遥かに離れた惑星グリスから、彼らの元に救難信号が届いた。



「こんなとこ、人なんて住んでたか?」


「データには……そのような記録はありませんね……。幸い往復出来るだけの燃料はありますが、アリス、どうしますか?」


「行くだけ行ってみましょうか。心残りがあったままじゃ、ゆっくり休めないものね」


「ロム、残念だったね、何もなければ念願のゆうえんちで遊べたのに」


「ぼくは子供じゃないからそんなのいいのさっ。ニアだって攻撃されないようにずっと守ってたくせに!」


「ほらほら、ケンカしないの。心配しなくても、戦争が終わったらいつでも行けるから、ね?」





 それから程なくして、彼らは惑星グリスへと到着した。


「レーダーの調子が悪い……。大気中に霧が充満してて、上空からだと救難信号の出どころが掴めそうにないね」


 着陸すべきかアリスが悩んでいると、突然、宇宙船が大きく揺れた。

 そして、全員が落ち着く間もなく、船はみるみるうちに落下していった。


「いったぁ〜……みんな、大丈夫?」


「んむむ、どうしたの? ごはんの時間?」


「寝ぼけてんなジッド、緊急事態だ! 船のシステムにエラーはねぇ! つまり……」


「宣戦布告を受けたって事だね……」


「なっ、今更どこか仕掛けてくるってのよ!? あと数日で終戦協定が結ばれるはずじゃないの!?」


 全くの想定外の事態に憤りを覚えるアリス。


 そんな彼女の疑問に対し、いつの間にか晴れていた空を船内から1人見上げ、ローズがポツリと呟いた。


「……多分……全部だ……」


 全員が船外へ目を向けると、これまで自分達と戦ったり、あるいは協力してきたアーティファクト達が、彼らの周囲をおびただしい数で埋め尽くしていた。

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