107.5話 アリス・イン・ワンダーワールド ~鳥籠の少女~

挿入話です。

かつて小さな人形達と共に世界と戦った、一人の少女の話。



 アリス・ミラ・フリューゲル。

 戦争兵器等の貿易により、一代で巨万の富を築いたフリューゲル家の長女として、彼女はこの世に生を享ける。


 アリスは生まれながらにして二つの病におかされていた。


 一つは先天性白皮症。

 通称『アルビノ』と呼称されるこの病気は、常染色体劣性遺伝が原因で、皮膚、毛髪、眼が白色あるいは銀色を放つ病である。

 その神秘的な見た目に反して、地域によっては異常な程の迫害を受けるケースが多い。

 アリスが生きた時代も例外ではなく、故に彼女は人生の大半を、父親が用意した人目の届かない屋敷の中で過ごした。


 もう一つはジベル薔薇色粃糠。

 皮膚に小さな斑点が浮き出る、発病原因が不明なこの病は、一般的な日常生活を送る上では大した支障はない。

 しかし、元々皮膚の病を患っていたアリスにとっては別だった。


 この病のシグナルとして現れる皮膚の斑点やかゆみが、アリスの場合は出なかったのである。


 長年放置した結果、他の病を誘発的に引き起こし、アリスがギルフォードと会うまでには医者がさじを投げる程に悪化していた。


 彼女の父親も手を尽くしたが、当時の医学ではどうにもならず、アリスは過ぎ行く日々をただ眺めるしかなかった。


 そんなときにアリスの前に現れたのが、後に『星のアーティファクト』を製造し、世界に平和をもたらすきっかけとなった人物、ドクター・ギルフォードだった。


 彼は出生まで秘密裏にされていたアリスの存在、病状を突き止め、人里離れたアリスの屋敷に一人でやって来た。

 とある冷たい雨の降る日のことだった。




「僕が君の病気を治してあげよう」


困惑するアリスに、ギルフォードは優しくそう言った。

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