107.5話 アリス・イン・ワンダーワールド ~夢見る少女~

「細胞を……入れ換える……?」


「そう。つまり、どんな病気も治せるってこと」


 ギルフォードが説明する時の資料は紙でもなんなら口頭でも構わなかったが、自分の技術力を示し、より早くアリスを説得するため、腕時計から何もなかった空間にモニターを出現させた。

 辛そうにベッドに横たわるアリスに、ギルフォードは出現させたモニターを使い、淡々と説明をしていく。


「アーティファクトって知ってるかい?」


「えっと、戦争兵器よね」


「概念は人それぞれだけれど、僕は『人工知能を備えた、人を助けるためのロボット』だと思ってる。これから君にもそういう認識を持って欲しい」


「……? 分かった」


「僕が今開発しているアーティファクトのうちの一人が、人の病気や怪我を治す事に特化した子でね。僕はその子をメディカル・アーティファクトと名付けた。人が自力で本来かかる時間の50分の1の時間で治療が出来る。何をどう治すのかは相談しながら決めるといい。君の場合かなり時間がかかるけどね」


 アリスは聞いたこともない話を大真面目に話すギルフォードを見て失笑しそうになったが、今まで金目当てで寄ってきた医者や詐欺師、宣教師と違い、彼の冷たく何か遠くを見据えたような眼を見て只の絵空事を述べる人ではないと思い、ぐっと堪えた。

 逆に自分の生死に頓着のなさそうな彼の言動を見て、少し安心した。

 もう人を傷付けるのも、傷つけられるのもうんざりだったから。


 が、しかし反対にギルフォードが吹き出す。


「ぶっ……アッハッハ、いやごめんごめん、この話をすると大抵の人に笑われるからさ、なんか嬉しくて」


 こっちは必死で耐えたのに! と内心憤るアリス。


「条件は?」


「そう怒らないでよ。まぁ長居しても体に響くだろうし、端的に説明させてもらうよ」


 ギルフォードの出した条件のひとつめは、アリスの予想通りアーティファクトの開発における資金的な援助。

 詳細は開示するし、ほとんどがアリスにとって有益な使い道だということも伝えた。


 ふたつめの条件は開発中のアーティファクト5体が揃ったときに、共に行動し、共に宇宙を巡り、自身の病気を治しながら、慈善活動に貢献すること。


「宇宙を……?」


「この星にも、この星以外にも助けを求めてる人達がたくさんいる。今この瞬間にも、消え行く命がある。5人のアーティファクトは、そんな人達を助けるためにこれから生まれてくる。それを君にも手伝って欲しい」


「わたし……宇宙になんて行ったことも……外だって小さいときに庭を歩いた記憶しかないのに……」


「やめとく?」


 アリスはギルフォードへと体を向き直し、首を思い切り横に振った。


「いいえ、絶対やるわ。パパには何としてでも納得してもらう。その子がくるのは1カ月後よね?」


「大体ね。問題なければ、その子を連れてまた来るよ。頼もしいね、期待してるよ。あー、あと君のお父さんに伝えておいて欲しいんだけど、アーティファクトが完成しても、暫くはお嬢さんと共にメンテナンスが必要です、って。僕はまだ、君に関わった人達と同じように、行方不明にはなりたくないからね」


「……やっぱり……。分かったわ、十分に伝えておく」


「よろしくね。じゃあ僕はそろそろおいとまするよ」



 それから一ヶ月後、屋敷の門の外に、手ぶらのギルフォードが現れた。

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