83話 えぬの世界

 のれんを潜るとそこは食堂だった。


 目の前には、人が3人程座れる木製のカウンターテーブル。

 その奥には、頭に白と赤の捻じりハチマキを巻いて、意味深にどっしりと構えた相棒がいた。

 カウンターの中には俺が地上で作ったかまどや、奥の方には宇宙船から持って来た食器が見える。




「よろこんでー!」


「だいぶフライングだなそれ、まだ何も頼んでねえよ」




 N2が首をかしげると、頭のハチマキが緩む。

 それを慌てて直しながら、空いてるところにどうぞ、とN2。

 ちなみに椅子は一つしかない。


 耐えろ、耐えるんだ俺。

 この空間はペース配分で命取りになる……ッ!



「つまらないものですが……」



 N2はそう言いながら、椅子に座った俺の目の前にカウンターの奥から宇宙船にあった箸を置いた。

 そしてカウンターから一度姿を消すと、白くて細長い帽子を被り、同じく白いエプロンを付けて現れた。

 エプロンには入り口にかけてあったのれんと同様に、汚い文字で『しぇふ』と書いてある。




「N2……。おいN2。もう十分面白いから何がしたいのか話せ」


「レイ……、今は『しぇふ』と呼べ」




 一体何の本を読んだんだこいつ。




「シェフ、お腹がすきました。この良い匂いはなんなんですか」


「うちで取れた野菜です!」




 ある程度予想はしてたが、俺は今日死ぬかもな、今から死ぬかもな。




「野菜ってピノが作ってたやつか?」


「見てきたの? すごいでしょ」


「あぁ……まぁ……いろいろとな」




 N2の事だから食っても平気なもんしかないんだろうけど……普通に嫌だな。




「レイにはたくさん食べてもらわないと!」


「俺のための野菜なのか……? なんでまた?」


「いいから、いいからー。さ、ご注文は?」




 よく分からないが、まぁ従うとしよう。

 けどメニューもなにも見当たらない……。

 何をどうすればいいのかと戸惑っていると、シェフがぼそりと呟いた。



「(おススメは? って聞いて)」


「え?」


「(おススメは? って)」


「……おすすめは……?」



なんだこれは。

なんなんだこれは。



「お客さん運がいいね! 今日は良いのが入ってるよ!」



 シェフがカウンターから姿を消し、背の高い白い帽子をカウンター越しにちらつかせながら何やら準備を始めた。

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