84話 キノミを添えて

「お待ちどうさまです、こちら本日のおすすめ『オリオンカボチャ蒸し』です」



 大きめの皿に雑に乗せられたオリオンカボチャから、ほくほくと湯気が出ている。

 調理と呼んでいいのか疑問ではあるが、蒸したオリオンカボチャは意外にもうまそうに見える。

 鼻腔をくすぐるふわりとした甘い匂いも一役買って、余計に食欲をそそられる。

 間違いない、今まで香っていた良い匂いの正体はこれだ。



「焼いたり煮たりじゃなくて、あえて蒸したんだな」


「くっ……、これしか……調理法が分からなかったんだ……ッ!」


「なんでだよ、よくわかんねえけど。つか、これそのままで食べるのか? 味付けとかしてないだろ。いや、そもそも調味料がないのか」




 まぁいい。

 匂いは良いんだ、味もきっとそれなりなはず。


 箸でこのカボチャとどう格闘しようか悩んでいると、N2がキッチンの奥から何かを持ってきて皿に置いた。




「改めまして、こちら本日のおすすめ『オリオンカボチャ蒸し ~ラズベリーを添えて~』です。よしなに」


 両手を前で重ね、すました顔でN2はそう言った。

 ツッコむべきか、とりあえず食べてみるべきかを悩んでいると、N2が再びキッチンの奥へと消えていく。


「もう木の実は添えなくていいから! ちゃんと食べるから!」



 恐る恐る箸をカボチャに伸ばしていく。

 箸で切り込みを入れようとするが、外皮が固くて箸がちっとも通らない。




「やはり……力不足か……」


「いや、俺の問題!?」


「このままじゃダメだな……。レイ、向かいの横穴にシャワーの代わりとなるらしいフロというものを作ったから、首を洗って出直すんだ!」


「フロ!?」


「そう、本に載ってた。人間はあれに浸かると極楽浄土に行けるらしい」


「殺す気か!」


「レイの新しい服も作ったから、早く行っておいでよ!」



 フロから上がったらもう一回カボチャチャレンジだ! とN2。

 結局添えられたラズベリーしか口にすることが出来なかった。


 新しい服って何だろう。

 着替えはあったから選択しながら着回ししてたけど、激しい戦闘で穴が開いたのもあったからな。


 そんなことを考えつつ、N2に言われるまま反対側の横穴ののれんを潜ると、水蒸気が立ち込めた部屋に木造りの大きな浴槽が作られていた。

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