65話 フレッジリングは鳴き止まない
小さな赤いロボットは両手を地面に着けると、獣のような前傾姿勢をとった。
四肢にぐっと力を込め、赤いロボットは一瞬で間合いを詰める。
N2が俺とロボットの間に入り、バチバチと火花を散らしながら赤いロボットを弾く。
「レイに手出しはさせない」
「なら、てめぇからバラしてやる!」
N2の右腕が以前に見たナイフの形に変わっていく。
けど、大きさが前回の戦闘時と比べ遥かに大きい。
ナイフで振りかかり赤いロボットにN2が迫るが、何事もないようにひらひらとかわす。
赤いロボットは、そこら中に生えている樹木を足場として巧みに利用し、N2を翻弄する。
ところ構わずナイフを振り回すN2に対し、赤いロボットは何か機を狙っているような動きだ。
N2の振り下ろしたナイフが巨木に突き刺さり、一瞬の隙が出来た刹那、赤いロボットが樹上で一時停止したかと思うと、幹に掴まったまま両手足に思い切り力を込めて突進していった。
蹴られた反動で木の表面が凹み、ミシミシと音をたてる。
木にナイフが刺さったままのN2は身動きが取れず、咄嗟に左手を上に突きだし玉9つをシールドとして展開させた。
玉3つでひとつのシールドを展開。
合計3枚の分厚いシールドを作り出す。
一枚で巨大な黒いロボットのストレートパンチを弾く程の頑丈さだ。
あの速度で突っ込んだら逆にダメージを受けるのは赤いロボットの方だろう。
シールドと赤いロボットが接触した瞬間、周囲に衝撃波が生まれ、その衝撃が数メートル離れている俺のもとまで届く。
同時にガラスが割れるような音と共に、シールドは3枚とも力なく崩れ去っていく。
あのシールドを破っただと!?
ただの突進で何て威力だ……!
身体的スペックならN2を軽く凌駕してるぞ!
シールドによって勢いはかなり殺されたが、突進の勢いは止まらず、赤いロボットの渾身の引っかきがN2のボディに刻み込まれた。
N2はロボットの攻撃により後方に飛ばされ、太い樹木に叩き付けられた。
「ぐはっ!!」
「大丈夫かN2!?」
N2の腹部には鋭い刃物で切られたような傷が出来ていて、損傷部には赤いロボットが帯びている電気と、同様のものがまとわり付いている。
ただの攻撃では、N2のボディに掠り傷一つ付かない。
あの電気には、ボディを弱体化させるような効果があるのか?
電気の不思議な力でその場から動けないのか、N2は叩き付けられた木の根本で座り込んでしまった。
しかし攻撃の手は止めない。
「これならどうだ!」
N2が再び玉を操作し、自身の周りに円状に並べた。
9つの並べられた玉がどろどろと変形し、一つ一つが白いバレルに姿を変えた。
更にそれぞれのバレルから無数の光弾が打ち出され、赤いロボットめがけて飛んでいく。
けれど赤いロボットは、またもや攻撃をスルスルとかわす。
かわされた光弾が樹木を傷付けていく。
更にはバキバキと音を立て、周囲に生えている樹木にめり込んでいく。
今まで見たどの戦いよりも激しい……。
改めて思う……こいつらはいったい何の目的で作られたのかと。
激しい光弾の発射音と、木が崩壊していく音の刹那に、一瞬だけ静寂が訪れた。
破壊音が再び始まろうとしていた直前、微かだが精一杯振り絞って出したような鳥の鳴き声が聞こえた気がした。
周囲を見渡すと、小さな雛鳥が地面を這いずり俺のもとを目指している。
俺のもとをというより、俺が手に持っている鳩のもとを目指しているのだろう。
鳥にそんな習性があるのかは定かではないが、この雛は俺達が猿から逃げてきた道を辿ってここまでやって来たんだ。
小さな生命の取り巻きはいつも残酷で、護られないとあっという間に命を落とす。
N2が乱射した光弾が木の幹を削り、今まさに雛の上に巨木が倒れ込もうとしていた。
自分でもバカだったと思う。
持っていた鳩を放り投げ、気付いたら体は雛の方へと向かっていて、小さな命を救おうと木と地面の間に体を滑り込ませていた。
大丈夫……立ち止まらず最短距離で拾い上げれば木が倒れる前に潜り抜けられるはず。
猿の攻撃を回避した時のように、目に神経を集中させる。
泥にまみれた雛を優しく拾い上げ、あとは向こう側へ走り抜けるだけ……!
そう意識した瞬間、余計な力が足に入り、右足を大きく地面に滑らせた。
巨木がまさに倒れようとしている直下で盛大に転び、ぬかるんだ地面へ倒れこむ。
立ち上がろうと焦れば焦るほど、泥に足を取られる。
せめて雛だけでも……!!
バキバキッ…ベキッ!
巨木がギシギシと音を立てて倒れた。
俺達の真上に倒れこんだはずだが、不思議と痛みはない。
恐る恐る目を開けると、赤いロボットが倒れた巨木を支え、俺達が下敷きにならないよう守ってくれていた。
一体どういうことだ……。
さっきまで殺す勢いで攻撃をしてきた赤いロボットがどうして……。
赤いロボットは支えていた巨木を放り投げ、わなわなと体を震わせている。
「ちくしょう……!! ちくしょうッ!!!」
そう叫ぶと、そのまま逃げるようにジャングルの奥へと消え去っていった。
俺の手から零れた雛は、おそらく親鳥である鳩の方を目指し、地面を這いずる。
親の下へ辿り着くと、身を寄せ頬摺りをした。
静かなジャングル内に、雛の切ない鳴き声が響いた。
―――――――――――――――――――――――――――――――
あとがきです。
唐突な質問ですが、皆さんは赤い女の子のキャラクターといえば誰を連想しますか?
私の場合は何人かいるのですが、共通して『気が強い』というイメージがあります。
何ででしょうね。
さてさて、ここ数日PVの増え方や応援の数が、書き始めた当初と比べ物にならないくらい増えておりまして、章の途中ですが是非皆さんにお礼の言葉をお伝えしたいなと思い、お邪魔させてもらっています。ありがとう。
文字を書くのは苦手ですが、皆さんと一緒に物語を楽しみたいという思いで投稿を続けています。
嬉しさのあまり時々ご挨拶させてもらうかもしれませんが、よければこれからもお付き合いください。
それでは。(感想とかも待ってるよ……ッ!)
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