64話 ギャツビー・レッドは咲わない
赤い目をギラつかせながら、猿達が飛び掛かってくる。
ぬかるんだ地面でのこの跳躍力が、猿達の身体能力の高さを物語っている。
まぁ猿だから当たり前と言えば当たり前だが。
割りと危機的な状況のくせに、頭は妙に冷静で、猿達の跳躍軌道がなぜかよく見える。
最初の3匹の攻撃を身を捩ってかわし、追撃しに来た2匹の攻撃はサイドステップで回避。
この際だ、鳥は意地でも持って帰って食ってやる!
猿達の動きは目では追えるが、体が反応に追い付いていかない。
地面のぬかるみの影響もあるだろうが、脳と体の神経伝達にズレがあるような妙な感覚だ。
「よしな! こいつらはこの間の機械とは、わけが違う。アタシがやるから下がってな!」
赤いロボットが猿達を静止させようとするが、目が血走った猿達はロボットの言うことを聞かず、更に突っ込んで来る。
この間の機械ってことは、こいつ以外にも機械がいて、それに遭遇したってことか?
猿達をギリギリでかわしているが、これじゃキリがねぇ。
N2に倒させてもいいが、赤いロボットとの溝は深まるばかりだろうな……。
「N2、こいつに聞きたいことが山ほどあるが、一旦引くぞ!」
「おーけーっ」
全力で、かつ、木の間を縫うようにジャングルを駆けるが、足場の悪さもあってすぐに追い付かれてしまう。
「レイ! ぬかるみが少ない場所を選ぶ! 私が着地した場所を踏んで走れ!」
N2に先導されながら走り、宇宙船の方を目指す。
地上を走っていた猿達を少し引き離すが、樹上の猿達は地上よりも素早く移動し、俺達の頭上を走る。
「無理だな、追い付かれる。レイ、戦おう」
「やるしかねぇか……。N2、殺すなよ」
足を止め、追いかけてきている猿の群れに向き直る。
「最終警告だ! 皆、止まれ!」
N2が申し訳程度の警告をするが、猿達は構わず突っ込んで来る。
「警告はしたぞ」
N2の両手からふわふわと玉が飛び出し、向かってくる猿めがけて高速で移動していく。
玉が猿の下顎を小突き、手前の猿から順にその場に倒れ込んでいく。
どうやら脳震盪を起こし、気絶させているようだ。
仲間が倒れても猿達は突進をやめない。
生き物の行動としては常軌を逸しているが、あのロボットが強制的に操っているようにも見えなかった。
地上の猿を倒し、樹上の猿も残らず倒しきったところで、つかの間の静寂が辺りを包んだ。
「……制圧完了」
浮遊していた白い玉がふわふわとN2の手元に戻り、再びN2の体へ吸収される。
辺りには気絶しているであろう猿達が、散らばるようにして倒れている。
まるで地獄絵図だな……。
静寂から一変、逃げてきた方向からチリチリと電気が弾ける音が聞こえてきた。
そして薄暗い木々の奥から、倒された猿達の間を抜けて、小さな赤いロボットが現れた。
「お前ら……言い残すことはあるか……」
表情なんて見なくても、声色だけでキレてるのが分かる。
それも、出会い頭のキレ方の比じゃない。
「猿達が悪い!」
N2がハキハキと答える。
もう火にガソリンを注がないでくれ……。
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