66話 ドロップ・ティアーは煌めかない
「N2! 大丈夫か!?」
赤いロボットの気配が消えると同時に、N2に駆け寄る。
「はは……だいじょばないかも。変な感じ」
「喋ることは出来るんだな……よかった……。けど、どうすりゃいいんだこんな傷。またこぶ集めりゃ直んのか?」
「……。レイ、体がだるい。おぶってくれ」
「まじかよ、しゃあねーな。ほれ」
傷口の帯電状態は徐々に収まりつつあるが、N2の体の具合がどうにも良くないらしい。
俺がN2を背負っても、N2の重さはほとんどないし、俺自身怪我もしていないからなんてことはない。
御安い御用だ。
赤いロボットの脅威は去った。
あいつはいったい、いつからこの星にいたのか。
この森の動物は、いつ出現したのだろうか。
猿とどんな関係があるのか。
あのロボットは何故、襲う側から一変して助けてくれたのか。
N2達と違って、あいつには記憶があるのだろうか……。
聞きたいことがたくさんある。
もう会えるか分からないけれど。
猿達が倒れるなか、泥まみれの雛がずっと鳴いている。
この状況で親鳥である鳩を持ち帰り、食うことが出来たら、人として終わってる気がするな……。
「はぁ~、諦めるか」
雛から親鳥を引きはがし両手でそっと持ち上げる。
ぬかるんだ地面で申し訳ないが、穴を掘り簡易的な墓を作ってやった。
「いいのか? 食べなくて」
「流石になー。代わりにこいつ育ててみようと思うんだが、どうだ?」
「いいね」
雛をそっと拾い上げると、今度は安心したかのように鳴き止んだ。
でもこんなに体が濡れていたら命を落とすのは時間の問題だ。
猿もいつ起きて襲ってくるか分からないし、とにかく今は船へ帰ろう。
ジャングルを抜け、ミニN2に手を借りて崖を上り、平坦な道を歩いて宇宙船を目指す。
元気のなかったN2が、背中の上でふつふつと話し始めた。
「あの赤いの、強かった……」
「あぁ、強かったな」
「負けちゃった……勝てなかった……。レイすら守れなかった……」
「まぁ……うん。でも、こうして無事なわけだしさ」
「グス……私は……アイボウ失格…だ」
「おいおい、泣いてんのか!? 泣くのかロボットって!?」
「な゛いでな゛い!」
「あーはいはい、わかったよ」
「ぅぅ……なによりも、レイがな゛おしてぐれた体を……ごんなにしてしまったッ…グス……せっかく、一生懸命直して……くれだのに」
「また作ればいいよ、お前が無事でよかった」
「よ゛ぐな゛い!」
「もー、めんどくせーなー」
「猿達も……ちゃんと目覚めるだろうか……グス」
「脈があるのは確認したろ、大丈夫だよ」
「きっと、とても慕ってたんだ……あの赤いのを……。だから……グス…命令されてもないのに……私達を……。赤いのもとても怒ってた……グス…悪いことをしてしまった……」
「でも俺を助けるためだったんだろ? 俺にとって、お前は正しいことをしてくれたよ」
「そうかな……」
「そうだよ」
N2は宇宙船に着いた後も、夜になってもぐずったままだった。
赤いロボットに一方的にやられたのが相当堪えたのだろうか。
それにしても、N2の泣き声には驚いた。
泣くこと自体にも驚いたが、いったい何のために必要な機能なんだろうか。
泣き方も、人が実際に泣いているようにも聞こえた。
どうやって鼻をすする音を出しているのかは謎だが。
部屋に戻ると、机にちょこんと座り込んだN2がいた。
その目には、濁った涙のようなものを溜めている。
泣き声だけじゃなく、涙を流す機能もあるのか?
その際に目に溜めた滴が床に落ち、床が土色に染まった。
なんだ、涙じゃなくて顔についた泥だったのか。
「調子はどうだ、N2」
「元気だよ」
嘘つきめ、こりゃ機嫌が直るまでしばらくかかるな……。
持ち帰った雛には、葉っぱを集めた巣を作ってやった。
今はその巣の中でおとなしくしている。
雛には虫や木の実を上げてみた。
大きいものは口から零れてしまうが、小さいミミズなんかをよく食べる。
成長してあの危機感が全く無い鳩に育ってしまうとしたら、何か手を打たないとな。
せっかく育てても、泥に頭を突っ込んで死んでしまっては困る。
出来る範囲で世話してやろうと思う。
その日の夜はやけに静かだった。
普段聞こえる虫の声が聞こえないし、外に蛍も見当たらない。
今日のところはひとまず寝よう。
さて明日は何をしようか。
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