59話 創造とサイカイ
数々の試行錯誤と失敗を経て、金属に光を閉じ込めることに成功した。
熱処理をした後に表面に現れた不純物の焦げは衝撃により剥がれ落ち、中から淡く煌めく金属が姿を現した。
光の根源である蛍から消化液、それと2種類の虫を通じ、熱処理を加えることでようやく辿り着いた物体。
直径2センチ程のビー玉のような金属一粒を作るのに、ウツボカズラの消化液5壺分(同色)、蜜回収用の蟻3匹、コブコガネの餌用の金属約150グラムを要した。
この一つの回答を得るのに時間はかなりかかったが、それに至るまでに得た知識や経験はとても大きい。
N2の元々の大きさを加味すると、これと同じサイズがあと6つは必要か。
手法は判明した。
方向さえ定まっていればさほど日数はかからないだろう。
寝る間も惜しんで作業に没頭した。
素材を集めては、元の姿に戻りつつあるピノを励みに、1つまた1つと着実に輝く玉を作っていく。
二人がいなくなってから十日経った日の夜。
最後の一つ玉の制作に差し掛かった頃、前回よりも強力な突風が吹いた。
シェルター内で作業をしていた俺は事なきを得たが、外壁に叩きつけられる木や金属の音が痛々しい。
暗くてよく見えないが物凄い量の金属や、根が浅い木などが風に撫でられ飛ばされているだろう。
風が収まると、遠くの空から押し寄せてくる雲達によって星空が覆われた。
きっと前回の突風時よりも天気が荒れる。
急いでN2に雷を浴びせる準備をしなければ。
シェルターの屋外には既に金属の棒を設置していて、避雷針の準備はバッチリ。
落ちる本数も雲の中で放電する雷の様子からして前回の何倍も期待できると思う。
あとは雷が落ちてくる前に避雷針のそばにN2を置いておく。
そして雷が収まった頃に、帯電した状態のN2に作成した光輝く金属を与える。
それが今回のミッションだ。
N2を置きに行こうとシェルターをよじ登っていると、頬に冷たい何かが触れた。
雨だ。
次第に強まる雨は、少しの間しか外にいなかったにもかかわらず体が重くなるほど服を濡らした。
雨で地表が濡れることで、雷に直接撃たれなくても感電する恐れがある。
周囲が十分に濡れたこの状況では雷が近くに落ちただけでもアウトだ。
皮膚の表面がピリピリとひりつく。
落雷の兆候だ。
急いで中に戻らないと。
ポケットに入れていたN2を焦って取り出そうと勢いよく手を引き抜くと、一緒に入れていた光る金属が零れ落ちてしまった。
シェルターの屋上をコロコロと転がっていく金属の玉。
シェルターから落ちて雨で流れたら面倒だ。
屋上から落ちるギリギリのところで捕まえた瞬間、頭上の雲の中で放電した雷が、カッと周囲を照らす。
視界の端で捉えた黒光りする金属が、雨水を滴らしながら雷の光を反射した。
闇夜に紛れ、目の前に何かがいる。
雨がその体にぶつかっては飛び散り、目の前のそいつの大きさに驚愕する。
シェルターの屋上に立つ俺よりも高い位置に並ぶ二つの赤い目。
「コン……ニ……チハ」
聞き覚えのある気味悪い声と共に再び頭上の雲が光り、見上げる程大きな黒いボディの全体像を照らす。
しまった、こいつらはパーツを回収しないと復活するんだった。
二人を壊した張本人が目の前にいる。
しかもどういうわけか元の大きさから何十倍も大きくなって復活している。
「zざ…ンネ……zんダ、ザン……ざざ…ねん、ザンネン、z…残念ダ」
すぐさまバックステップで身を引き離そうとするが、やつの大きな手が伸びてきて鷲掴みにされ、俺の体は宙へと持ち上げられた。
掴んできた手が焦げ臭い。
言葉のノイズや不自然さからして、完全修復はしていないらしい。
以前よりも言葉が聞き取れるようになっている分恐ろしさが増す。
「興味ガ……アル……ざざz、ドチら…か……zスキナ…ウ…腕……zざざ、腕、うデ、腕ヲモラウ」
そう言って掴んでいた腕とは逆の方で俺の腕をつまむと、とんでもない力で腕を引っ張りだした。
腕も塞がれ、足も地に付かず身動きが取れない。
腕からミシミシと聞いたことがない音が出る。
「ぐあああああああああああッ」
痛みのあまり、腕に持っていたN2と光る金属を離してしまう。
こいつ、腕を引きちぎる気かッッ!?
痛みからのショックなのか実際の光景なのか分からないが、上空が閃光で溢れる。
そして次の瞬間、無数の雷が地上に降り注いだ。
走馬灯って、こういうことを言うのかもしれない。
視覚だけが妙に研ぎ澄まされ、景色がスローモーションで流れていく。
雨により閃光は地を這い、シェルター目掛けて向かってくる。
感電死を覚悟し思わず目をつむるが、腕の激しい痛みが残ってはいるが何故かまだ生きている。
そしてゆっくりと目を開けると、足元で太陽のように何かが輝いているのに気が付いた。
視界の外で輝くそれが一瞬移動し『ヤツ』の腕に亀裂が入る。
腕の押さえつける力が消え、その黒い腕ごとシェルターの屋上に落ちた。
掴まれていた腕と共に屋上に落下すると、白く輝く何かが目の前にやってきた。
「よく耐えたな、レイ」
白く太陽のように輝くそいつは、聞き覚えのある声でそう話した。
安心感なのか達成感なのか分からない。
この気持ちをそんな3文字で片付けたくはない。
ただその声を耳にした瞬間、体中が熱くなるのを感じた。
「おせぇよ……相棒」
「……ははは! 泣くな!」
雨で視界がぼやけて、こいつの笑ってる姿がよく見えない。
これが夢じゃないことは腕の痛みが証明している。
よかった……ほんとによかった。
「さて、目の前のこいつを倒そうか。レイ、ポケットに入ってるものを私にくれ! こいつめぇ、覚悟しろよ!!」
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