60話 フルメタル・オーケストラ

「レイ! 急いでそれを渡してくれ! 玉一つ分ではこいつを倒せるほどのパワーが出ない!」


 バチバチと体に電気を帯びながらN2は言い放った。

 滲んだ視界がだんだんとクリアになっていき、N2の姿を視認出来るようになったが、半分の胴体、それと腕と頭部だけで動いている状態だった。

 N2は俺が落とした玉の一つを取り込み、もともと引っ付いていたパーツと合わせることで、かろうじて『ヤツ』の黒いの腕を切り落としたらしい。


 腕を両方切り落とされた黒い機械が呻き、仰け反る。

 そして一瞬停止したかと思うと、突然がばっと口を開けて切り落とされたパーツを飲み込んだ。

 口をもごもごと動かしながら体内から蒸気を放ち、ヤツの切り落とされた腕の切り口が金属で覆われていく。

 腕を再生させているのか!?


 こっちも黙って見ているわけにはいかない。

 すぐさま残りの輝く金属をN2に渡す。

 N2がそれを受け取り、輝く金属の玉が以前武器を変形させたときのように液状化して形を変えていく。

 液状化した白く輝く金属はN2の体にまとわりつき、頭、胴体、手足を新しく形成していく。

 周囲の音が一瞬聞こえなくなったかと思うと、N2が激しく発光した。

 周囲が暖かな光に包まれる。

 次第に光は収束していき、光の中心から全身に白く輝く金属を纏ったN2が現れた。



 次の瞬間、視界が揺れる程の頭痛が襲ってきた。


(「N-2049のマナメタル保有率100%を確認。システムを再構築します。しばらくお待ちください」)


 頭にネジを差し込まれたのかと思った。

 激しい頭痛の中、鼓膜に直接触れるように脳内アナウンスが響く。

 これまでの傾向からして、多分このアナウンスはN2の状態とリンクしてるんだ。

 細かいことは後で検証するとしよう。


 それはさておき、全身が輝いているN2のテンションがおかしい。


「素晴らしいなこれは!!! 内包するエネルギーが体中で渦巻いているようだよ!!!」


 ぴょこぴょこ跳ねながら体の可動範囲を確かめている。

 帯電しながら光り輝く様は最早美しくすらある。

 中身はあんなだが……。


 N2がはしゃいでいるうちにヤツは腕を治してしまったらしく、切り落とした腕の切り口からは新しい腕が生えていた。

 踊るように舞うN2の隙を見て、殴りかかろうと振りかぶる。


 N2がピクリと反応すると右腕をヤツの方にかざし、オートモード時に起動していた浮遊する白い球体を3つ出現させた。

 以前と同様に、浮いた球体はN2の前で三角形状に並び、その中に膜を張ってやつが振り下ろした腕を弾いた。


 N2が今度は左腕を俺の方にかざすと、浮遊する球体をさらに6つ出現させた。

 以前は元々あった右腕のパーツが変形し球体にしていた。

 つまり球を出現させる代わりに腕の部分を失っていたが、前回よりも球の数を増やしているのにも関わらず、N2の体に損失箇所はない。

 マナメタルとやらを最大限保有したことによる恩恵みたいなものなのだろうか。


 N2が出現させた浮遊する球体は俺を取り囲み、上下に3つずつ三角形状に並んだ。

 そして球同士を線で結んだ面に薄い膜が張られ、シェルターの屋上の面を除く四面の箱の中に俺は閉じ込められた。


「レイはその中にいてくれ。中にいれば君は安全だ。落ちた雷の電流も球が吸収してくれるよ」


 N2がヤツの腕を押し戻しながら話す。

 俺を取り囲んだ箱がどうやら危険から身を守ってくれるらしい。

 以前ヤツと戦った時に守ってくれたバリアーを多面的に展開したものなんだろう。

 大人しくここで見守るとしよう。


 それはありがたいのだが、俺の方にバリアーを展開していたらN2自身が戦えないのでは?

 既に球を合計で9つも出現させている。

 もう他に武器は展開出来ないんじゃないか、という心配をよそに、今度はN2自身の右腕が変形し始める。


 一度液状化した右腕は一瞬にしてバレルに変化していた。

 それも今までとは比べ物にならない大きさ。

 長さは俺の腕と同じくらいで、太さは腕の2倍くらいある。

 もうN2が武器を装備しているのか、武器にN2がくっ付いているのか分からないくらいの比率だな。


 N2は構えたバレルを、球の作り出したバリアと押し合いをしているヤツの腕に向ける。

 ズムという低い音と同時にバレルから光弾が発射され、バリア、そして腕を貫いてヤツの肩まで撃ち抜いた。

 あのバリア、内側からは攻撃できるのか……ずるいな。


 ヤツの右腕がN2の攻撃により、だらりと力なく垂れ落ちる。

 回復される前にN2が間髪入れずに光弾を撃ち込んでいく。

 連発しているが、一発一発の威力がえげつない。

 全弾がヤツの体を貫き、こぶし台の穴を開けていく。

 しかしヤツの胴体部分の回復速度もすさまじく、開けられた穴を次々と新しい金属で塞いでいく。


「ぬぅー、これじゃあいくら打っても倒せない……。大技を使うとレイの宇宙船まで壊しかねないし……」


 なかなか倒れない敵にN2がぼやく。

 確かにこのままだと攻戦一方だ……N2のエネルギーもいつか尽きるかもしれない。

 何か俺にも出来る事はないか……。


 するとピコンという音と共に脳内アナウンスが喋りだした。


(「システムの再構築及び、アップデートが完了しました。一部のパートナーズアビリティが開放されます。ちなみに現在のシンクロ率は36%です」)


 また知らない単語が出てきたぞ。

 いい加減慣れたけど、一々頭痛を起こすのやめてほしい。


 更に光弾を撃ち続けるN2。

 脳内アナウンスによる頭痛が治まっていくと同時に、心なしか視界が鮮明に見えてきた。

 なんというか物質や現象の一つ一つをより色濃く感じると言うか……。

 雨の一粒一粒。

 空に走る雷の本数。

 N2が放つ光弾の色。

 走馬灯のように情景がスローモーションになっているわけではないが、視界内の存在一つ一つをより強く感じる……。


 ヤツの黒いボディに開けられていく風穴。

 その穴が直されていく過程も鮮明に。


 よく見るとヤツの穴の回復速度には穴の開いた箇所によってバラつきがある。

 直りの早い箇所、遅い箇所……なんだろう、きっとカラクリがあるはず。


 N2が貫通させた肩はほぼ直りかけているのに対し、腕の先の方はまだ火花が散っていて、直る気配がない。

 腹部の方に開いた穴は、胸部に開いた穴よりも直りが遅い……。

 弱点部分に近い箇所から早く直している……のか?


「N2! お前から見て右側のヤツの胸部を狙え! 他と比べて直りが早い!」


「直りが遅い方ではなくて、早い方を狙うのだな?」


「そうだ! 弱点部分のダメージから早く回復させるはずだ! 俺ならそうする!」


 N2は、分かった! と言ってヤツの左胸部を集中的に攻撃し始めた。

 初めは受け続けるだけだったヤツも、その個所が狙われだすと腕でガードしたり身をよじり始めた。

 ビンゴ……左胸部はヤツの弱点だ。


 N2が光弾を左胸部に撃ち込み始めて10発くらいで、光弾では貫通出来ないコアのようなパーツが一瞬見えた。


「N2あれだ! あの部分を集中して光弾を撃ち込め!」


「おーけー!」


 ヤツのコアを守っている部分を攻撃し、コアがむき出しになる。

 既にガードが不要になった浮遊する球が、穴を塞がれないように入り込みバリアーを張る。

 これでもうこちらからはコアを攻撃し放題だ。


 あらわになったコア目掛けてN2が更に数発光弾を撃ち込み、巨大な黒い機械は呻きながら、今度こそ爆散した。


 炎上するヤツの炎に紛れて、前回倒した黒い生命体よりも大きい黒い靄が上空へ登っていく。

 もう二度と復活されないようにパーツを回収しようと地面に降り立ったが、黒い機械のパーツはドロドロと溶け、雨に流されてしまった。


 どこかの水たまりで集まってまた復活する……とかないよな……。


「大丈夫さ、こいつの生命反応は確実に消えた! もう復活しないよ」


「だといいけどな……」


 ってあれ、今俺、声に出してたか?


「そうだ、レイ。早く腕の傷を見せろ!」


「いや、後でいい。もうヘトヘトだ、寝る」


「ちょ、ここで!?」




 安堵感と疲労感で一杯だった俺は、その場で倒れこむようにして寝た。

 いや、気を失った状態に近いかもしれない。


 翌日船内で目が覚めた。

 N2が運んでくれたんだろう。

 服は濡れたままだったから最悪の寝覚めだった。

 今は引きちぎられそうになった腕をN2に診てもらっている。


「ん~、これは風邪ですね。お薬出しておきますね」


「なんで腕に聴診器当てて症状が風邪なんだよ。お前これがやりたかっただけだろ」


「間違えた、風邪じゃない、あれだ、ささくれ、ササクレス症候群」


「勝手に病気作んな!」



 結論から言うと、腕に怪我はなかった。

 絶対折れてると思ったんだけどな。

 起きたら痛みもなくなって、動かすのにも問題はなかった。


 昨日の天気が嘘のように晴れている。

 とてもいい天気だ。


 空を眺めても雲一つない快晴だ。

 そう、雲はないんだが、遠くの空に何か浮いている。

 遠すぎて豆粒程度にしか見えないが何かある。

 なんだあれ。


「N2、あの方角なんか浮いてねえか? お前なんか飛ばしたのか?」


「いいや、私はなにもしてないぞ。……んー確かになにかあるな。あの距離と高さじゃレーダーにも反応がないのも頷ける」


 いや、感心してる場合かよ。


「ピノには悪いが留守番してもらって、ちょっとあれを見に行ってみるか」


「そうだな! 行こう! 大丈夫、パワーアップしたミニN2を置いていくよ!」


 向かいながらお前がいなかった間の話でもするか。

 マジで大変だったんだぞ、N2。

 ……でもお前が戻ってきてくれてほんとによかった。

 お前がいなくなって、改めて気付いたよ……ありがとな。







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後書きです。


レイが一人で奮闘する章は、いかがでしたでしょうか。

少し大げさですがレイには壁に当たってもらいました。

レイ自身も苦労し、壁を乗り越えることで、人間的に成長できたのではないかと思います。


ですが、彼らの冒険はまだ終わりません。

どうかこの先も応援して頂けたらと思います。



感想等も随時受け付けていますので、簡単で結構ですので頂けると幸いです。


それではまた次章で。

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