53話 探独

 環境に抗うもの、依存するもの。

 星の生物たちは様々な形をもってして星で生き抜く術を模索している。


 N2達が動けなくなってからは一人でも探索を行っているが、生物たちは依然として進化を続けている。

 図鑑にも載っているような植物や虫も増えて来ていて、生物たちの変貌は留まるところを知らない。

 この星がどれくらい広くて、どれくらいの生物が発生したのかは定かではないが、周囲の状況だけでも把握しておいて損はないと思う。


 探索時には面倒だが昆虫図鑑と植物図鑑とN2が作りかけていた試験管を持ち歩いているので、見慣れない生物がいるとその都度調べているのだが、やはり殆どが図鑑にも載っていないような生物だ。

 恐ろしいのは虫の大半は夜行性だということで、それはきっとこの星でも変わらないと思う。

 日中の探索だけでも相当な種類の虫が見付かるんだ、夜になったらこれを越える種類がまだまだ見付かると思う。

 サイバイアリモドキのような有用性のある生物が他にも見つかるかもしれない。

 灯りを確保して夜の探索も視野に入れておく必要があるな。


 生物の進化が特に著しいのは、やはり以前の戦闘で焼けてしまった地点の生物達だ。

 黒い生命体が撒いたガソリンのようなものが悪影響を及ぼしているかは謎だが、火が鎮火した今でもあの地点で発見した生物の総数は他の地点よりも少ない。

 生物発生の根源が何なのかは不明のままだが、生きにくい環境を敢えて選択する理由が何かあるのだろう。

 植物達は以前とてつもない勢いで成長と枯死を繰り返していたが、ある程度の進化を遂げた後その勢いは収まった。

 しかし未だに成長を続ける植物がこの焼けた地点にはいくつかある。


 この地点にも数本しかない『バンブーベリー』と名付けた植物がそのうちの一つで、幹の十数センチ置きに節を持ち、幹の内部は空洞となっている。

 葉の形状こそ違えど竹に酷似したそれが本家と異なる部分は母体のてっぺん付近にブルーベリーのような実を付けている点で、こんな場所に生える植物の実の味なんてと初めは思ったが食べてみると驚かされた。

 味はブルーベリーと同じだが、やけにさっぱりというかフルーティー、それでいて後味が暫く続くほど味が濃い。

 要は癖になる味というやつだ。

 初めのうちはバンブーベリーの全長も低く、安易に実に手が届いたがものの数日で手が届かない程の高さに成長してしまった。

 昨日見たときよりも更に手が届かなくなっているので、今もなお成長を続けているのだろう。

 切り倒してまで実を取ろうとは思わないので、またあの味を味わうことが出来るのは随分先になりそうだ。


 成長とはまた違うが、全員で探索に来た以降に新しく見られた光景もある。

 まず目についたのは、ある植物の根の部分に大量に放置されていた虫の死骸だ。

 いや、よく見たら生きている虫もいる。

 手足がピクピクと動いているが、起き上がる気配はない。

 一種の麻痺状態のようだ。

 見ているそばからポロポロと上から虫が落ちてくる。

 植物の幹の部分からは樹液が出ていて、その樹液に虫達が群がっている。


 原因は恐らくあの樹液だろう。

 N2の解析を以前試した時はあの樹液に毒はなかった。

 虫だけに効くものだったのか、あるいは虫を麻痺させるレベルにまで効力をあげたのかは分からないが、この樹液を出す植物はこのような手段で虫を死に追い込んでいる。

 即効性の毒ではなく、麻痺を引き起こす毒を出す理由は何かありそうだが、虫の死骸を大量に集める理由は補食と考えるのが妥当だろう。

 根本に死骸を大量に集め、土に分解させ自らの養分として吸収する。

 ウツボカヅラとは違ったアプローチだが、虫達もただ黙って死ぬわけにもいかないだろう。

 これだけの数がやられているのだから、そろそろこの毒の樹液を克服する虫が出てきてもおかしくなさそうだが……。

 葉の形状と樹液の特徴から、この毒の樹液を出す植物を『マヒクヌギ』と名付けた。


 この大量の死骸の中に今回の探索の目当てだったコブコガネはいなかったのでひとまず安心したが、やはり個体数が少ないのかなかなか見付からないのは不安でもある。

 この星の環境がいつ変わるか分からない以上、安全に探索出来るうちに発見しておきたい。

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