32話 ほのお の ほうい

 炎が燃え盛る景色の中、不自然に湾曲した両足で、焦げた植物を踏み倒しながら、黒い生命体は現れた。

 身長は俺と同じくらい。

 N2が破壊した生命体よりも、一回り大きい。

 俺達を視認すると、威嚇のつもりか、両腕からゴウッと炎を発射して見せた。

 植物に火を放った犯人は、こいつで間違いないだろう。

 そして明らかに、挨拶に来た、なんて雰囲気ではない。


「ピノ! 逃げよう!」


 慌ててそう言うが、何故かピノはふらふらして足元がおぼつかない。


「どうした!? 走れないか!?」


 ピノに駆け寄る。

 そうしている間にも、黒い生命体はじりじりと近付いて来る。


「すみません……熱いのダメみたいです……」


 ロボットなのに!?

 そんなことある?


 N2ならやりかねないが、ピノはこの状況で冗談を言うやつじゃない。

 倒れかけていたピノは、ついには地面にへたり込んでしまった。

 黒い生命体がピノに腕を向けながら、もうすぐそこまで来ていた。

 乱暴で悪いが、ピノを鷲掴みにして、全力で走り出す。


「レイ様、すみません……。耐熱性がないことを知りませんでした……」


「気にしなくていいよ。むしろ、今知れて良かった」


 火の手が伸びていない方へとひた走る。

 黒い生命体が両腕から炎を放ちながら追ってきてるが、走る速度は今のところ俺の方が速い。

 どうにか宇宙船の方へ向かいたいが、燃え盛る植物と生命体が行く手を阻む。


 そうこうしているうちに煙が立ち込め、とうとう宇宙船の方向すら分からなくなってしまった。

 周囲の温度も上昇し、口数が更に減っていくピノ。


 一定距離を詰めてきていた黒い生命体が、ふと動きを止めた。

 なんだ?

 諦めたのか?


 肩で息をしながら様子を伺う。

 酸素が薄くなってるのか、呼吸が浅い。

 俺もそろそろ限界だ……。


 すると、黒い生命体は両腕を大きく広げ、腕の先端から周囲に何か液体を撒き始めた。

 液体は俺の頭上を越え、周りを囲うようにして散布された。


 この臭い……ガソリンか!?


 黒い生命体が、撒いた液体に腕から出る炎を近付けると、液体のかかった植物や地面が、勢いよく燃え出した。

 炎は一瞬にして、逃げ場のない壁を形成した。

 炎の壁は向こう側が見えない程分厚く、突破したとしてもただの火傷ではすまないだろう。

 上手く炎の壁の外へ出られても、火傷で動けずに捕まる落ちが見えてる。


「レイ様、二手に別れましょう……。ピノがあの黒の機械の気を引きます……。このままではレイ様まで……」


 動けない体でどうやって注意を引くんだよ。

 あいつに捕まったら、どんな目に遭うか分かんないんだぞ。

 もしかしたらN2みたいに……。


 黒い生命体は、追い詰められた俺達にゆっくりと接近してくる。

 もうゲームは終わったってか?

 マジでムカつくな、あのやろう。

 ピノをこんなにしやがって。


 N2の時も、黒い生命体は俺を見向きもしなかった。

 こいつの狙いもどうせピノだ。

 なんとかピノだけでも逃がせれば……。


 探せ。

 何かないか、何かっ!


 炎と煙が立ち込める中、その隙間から一瞬だけ、シェルターが見えた。

 もうこれしかない。


「ピノ、炎から離れればすぐに動けるか?」


「おそらく、大丈夫だと思いますけど……」


「そうか。動けるようになったら、シェルターに入ってやり過ごせ。あの中なら多分、こいつも襲えないと思う」


 先刻一瞬だけ見えたシェルターの方角目掛け、ピノを掴んだ腕を振りかぶる。


「レイ様……? ダメですよ! お願いします! それだけは……!」


「悪いな、ピノ。また後で」


 振りかぶった腕を全力で振り下ろし、ピノをシェルターの方へ投げ飛ばす。

 ピノが弧を描き、声にならない声を発しながら、炎の壁の奥へと消えていく。

 その後を追うようにして、黒い生命体が移動を始める。


 これでピノはひとまず無事だ。

 まぁ、すぐに動けていればの話だが。

 あとは目の前のこいつが諦めるまで、シェルターに籠ってくれてればいい。


「残念だったな! お前にピノはやらねぇよ!」


 黒い生命体の後ろ姿に向かって、通じないであろう挑発の言葉をぶつける。


 すると、黒い生命体は歩みを止めて、こちら側に振り返った。

 そしてゆっくりと、向かってくる。


 おい、そのパターンは聞いてないぞ。

 そのまま行けよ、戻ってくんな。


 黒い生命体は腕を構え、俺に狙いを定める。


 どうする。

 もう逃げ続ける体力もないぞ。

 一か八かで壁の外に逃げ出すか?

 怪我をしたら、星からの脱出は間違いなく先延ばしになる。

 逆に必死に謝ってみるか?


 そんな甘い考えを、黒い生命体はことごとく裏切った。

 構えられた腕からは、液体が発射された。

 てっきり炎が飛び出してくると身構えていたので、反応が遅れ、液体をもろに被ってしまう。


 終わった。

 先程勢いよく燃えていた液体だ。

 周りの植物の火に、少しでも触れたらアウト。

 その火は、俺の体を一瞬で包み込むだろう。

 もう動き回るのさえ死に直結する。


 黒い生命体の腕からカチリと音が鳴る。

 腕からの放出物を、液体から炎に切り替えたのだろう。


 ごめん、ピノ。

 ごめん、N2。


 そう諦めかけた瞬間、炎の壁が揺らぎ、そこからガラクタの寄せ集めで出来た、大きな人の形をしたロボットが現れた。


 そのロボの肩にN2が乗っている。


「レイ!! 助けに来たぞ!!」

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