26話 なまえ は ぴの
「すみません、あの、驚かせてしまって……」
頬を赤らめながら、手のひらに乗っている緑の人形はそう話した。
N2のこともあり、サプライズには相当慣れたと思っていたが、これには思わず言葉を失う。
倦怠感が体を襲い、人形を手のひらに乗せたまま、蔓の柱を背にして座り込んだ。
「あぁ、すみません! 助けて下さった上に、貴重なマナまで分けて頂いて……」
人形は再度謝り、どこか聞き覚えのあるような事を口にした。
マナなんとかってのを、以前脳内アナウンスが話していたような気がするが、それと関連性が?
というか、この人形言葉が流暢過ぎないか?
敬語まで使いこなしてるぞ。
「色々聞きたいことがあるんだが、君は記憶があるのか?」
「完全に、というわけではありませんが、多少は覚えています。言語機能やパーツ生成機能などは、コアにバックアップを取ってあったのですが、何故ここにいるのかや、あなた様方がどなたなのかも、申し訳ありませんが覚えていません」
言語機能、か。
それでここまで流暢に話せるのか。
N2にも少し分けてやってほしい。
「俺が君と会ったのは、これが初めてだよ。だから謝らなくていい」
「そうでしたか。お気遣いありがとうございます」
そういうと、人形は丁寧にお辞儀をした。
どうやら名前も忘れているらしい。
さて、なんと呼ぼうか。
N2の場合、コア部分にIDのようなものがあったんだが……。
手のひらに人形を乗せたまま、あらゆる角度で覗き込む。
身長はN2とほぼ同じか。
4等身で、材質は同じ金属だが、頭部には目の窪みがあり、窪みの周りは優しく発光している。
左胸の部分には、葉っぱのロゴのようなものがある。
それ以外に文字のようなものは見当たらない。
「あ、あの……、何をしてらっしゃるのでしょうか……」
不審に思ったのか、恥じらう人形にそう聞かれた。
まじまじと眺めすぎたか。
「いや、悪い。名前、何て呼ぼうかなって。どっかにIDみたいなもんがあるかなと思ってさ」
「そうでしたか。IDとは違いますが、コードは『P-N020』です。ご参考になればよいのですが……」
「P…のN…か。ピノってのはどうだ?」
「ピノ……! 嬉しい、素敵です。是非、ピノとお呼びください」
薄緑色の小さな人形を、ピノと呼ぶことにした。
少し可愛げがありすぎる気もするが、気に入ってくれたようなので良しとしよう。
「俺はレイ。こっちは相棒のN2」
「レイ様に、N2ですね。かしこまりました。よろしくお願いします」
どうも、アイボウです、とN2。
N2に対しては何故か呼び捨てだが、様付けはちょっとはずいな。
もっとラフな呼び方でいいよと言ってはみたが、助けてくださった方への感謝の気持ちですと、断られてしまった。
N2が、代わりに私に様付けをしてもいいよ、と言うが、ピノに見事な愛想笑いをかまされていた。
どんまい、N2。
お互いに記憶はないみたいだし、こういった知能をもつロボット同士は、相手のことをどう感じるのだろうか。
まぁ、喧嘩さえしなきゃそれでいいが。
宇宙船へ帰る途中、ピノに今の状況を話した。
宇宙船が壊れて、遭難していること。
N2と会って、それから黒い生命体と戦ったこと。
雨が降って、荒れた土地に植物が生えたこと。
探索中にピノを見付けたこと。
「ピノにもお手伝いさせてください。きっとお役に立てると思います」
事情を話すと、ピノは脱出の手伝いを快く引き受けてくれた。
高度なロボットは、全員義理堅いのか?
少し賑やかになった宇宙船で、今回の探索、主に植物のドーム及び、地下の部屋についての疑問を話し合う。
「まず、俺達を呼び込むようにして作られた植物ドームについてだが……」
そう切り出すと、
「あ、あれは、ピノが呼びかけたんです。ピノは、植物達と仲良く出来ます」
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