異星の箱庭
25話 にんぎょう と しょくぶつ
しばらく歩き、N2が見付けた植物の密集地に辿り着いた。
密集した植物達は、互いに絡み合い、ドーム型のオブジェを作り出している。
ドームの一番高い部分で、俺の身長と同じくらい。
直径は、N2の予見通り10メートルくらいか。
他の植物と比べると、明らかに異質。
自然に育って、こうもうまく絡み合うものなのだろうか。
N2は不用心にドームに触れるが、これといって反応はない。
「他の場所に生えている植物は、実をつけるものが多いのに対し、この塊になった植物は、アイビーやワイヤープランツといった、丈夫で生命力の高いものばかりだ。やっぱり何かあるよ、この植物達」
細かい植物の分類は俺にはよくわからないが、確かに他とは違うような気はしていた。
不思議に思いながらも、ドームを一周してみる。
すると、側面に一か所だけ、アーチ状に形成された部分があるのを見付けた。
アーチの枠組みは、他の箇所よりも太い枝が絡まって形成されている。
しかし、枠組みされているだけで、内側は植物でいっぱいだ。
「N2、これなんだと思う?」
「んー、ここだけネムリグサという植物で埋められてるけど……。図鑑に載っていたネムリグサ、別名オジギソウは、刺激を与えると葉の収縮を行うらしい。しかし、このように私が触ってもなにも変化がないし……」
N2はアーチ内の植物に触れながら、分からないというのを暗に伝えてきた。
「オジギソウかー……」
N2に釣られてアーチ内の植物に触れた瞬間、触れた部分から、わさわさと葉が閉じだした。
驚いて半歩下がる。
閉じ始めた葉は連鎖し、次々と収縮していく。
閉じた葉はアーチ内部に窪みを作り、やがてドームの内部へと続く道が生成された。
思わずN2と顔を見合わせる。
「これ、中に入れってことだよな」
「レイにだけ反応したところをみると、そうかもしれないね。行ってみよう。大丈夫、何があっても私が守るよ」
よろしく頼む、とN2に伝え、恐る恐るドーム内部へと入っていく。
ドーム内の道は曲がりくねっていて、ある程度進むと地下へと続いていた。
先行してくれるN2に続き、どんどん進んでいく。
地下へと続く穴の内壁には、植物が蔓を伸ばしている。
地上の光が見えなくなった頃、N2が発する光とは別のぼんやりした光が見えてきた。
ヒカリゴケだ。
地上にあったものとは別の種類だと思うが、優しい光を放っている。
N2が触れると、少し光を失い、徐々に光を取り戻していく。
地下へと続く道は少し急だが、危険を感じさせないような、柔らかな雰囲気に包まれていた。
しばらく進むと、開けた空間に出た。
地上からどのくらいの深さなのかは定かでないが、ここにはどこからか光が差し込み、内部はぼんやりと視認できた。
前回探索した時に見付けた通路に近い雰囲気を感じるが、内壁が植物で覆われているせいで、違う場所のようにも感じる。
「レイ、見てこれ」
N2が呼ぶ先にあったのは、壁の隙間から這い出るように伸びた、腕くらいの太さの蔓。
何かを求めるように伸びるそれは、少し不気味でもあった。
隙間を覗くと、中は植物に覆われた小さな部屋になっているようだ。
それよりもまず、目に一番に飛び込んできたのは、部屋の中心にある、床から天井にかけて伸びる蔓の集合体。
その中心に何かが緑色に淡く光っている。
幸い壁の隙間は広く、体を押し込めば、何とか中に入っていけそうだ。
N2が先行し、安全確認も問題なし。
いざ、部屋の中へ。
緑色に淡く光る物体は、蔓に巻き付かれて全体がよく見えない。
N2の解析なら何か分かるかもしれない。
けど、蔓を退かさないと、外せそうにないな。
「よし、ここは私が」
とN2が右腕を変形させて構えるが、慌ててそれを制止する。
鉈とかがあれば蔓を切り落として、この物体を回収できたかもしれないが、それはないものねだりだ。
不本意ではあるが、引っ張り出すことを試みる。
足元の蔓に少し足をかけ、物体に手を伸ばす。
触れた直後、体からふっと力が抜けた。
足の踏ん張りがきかず、尻もちをつく。
と同時に、物体がひときわ強く輝き始めた。
美しく輝く液体が物体から溢れ、植物が成長するかの如く、蔓状と化した液体が物体を取り巻いた。
やがてそれは胴体を形成し、頭、腕、足と順に生成されていく。
目の前の光景とは裏腹に、頭の中は妙に冷静だった。
この感じ、N2に初めて触れたときと同じだ。
けど、あそこまで体は怠くない。
生成をひとしきり終えた後、蔓に絡まっていたのはN2と同等の大きさの、薄緑色の人形だった。
胴体に絡みついた蔓が落下を拒み、それに対し人形は、両手足をバタバタ動かしもがいている。
「あーはいはい、今取ってやるから落ち着けって」
体を起こし、人形を蔓から外す。
そして、人形を手のひらへと迎え入れると、人形は手のひらの上で膝と手を着いてお辞儀をした。
「か、かわいい……」
N2が、むー! といって謎の対抗意識を燃やしていた。
俺の言葉に反応してか、人形は頬を赤く染めた。
「赤くなった」
と、N2。
「言葉が分かるのか?」
人形にそう問いかけると、人形は恥ずかしがりながら顔をあげ、
「あ……はい、です……」
と、申し訳なさそうに、弱々しくそう答えた。
柔らかく、優しく語りかけるような女の子の声。
N2に最初あったときみたいに、言葉が通じないものだと思っていた。
唐突にかわいいと言ってしまった自分を恥じ、顔が熱くなる。
姿と仕草だけでなく、声まで可愛いとは……。
「レイも赤くなった」
N2の追い打ちで、より一層顔が熱くなるのを感じた。
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