12話 ヨゾラ

 変形したN2の右腕に思わず見蕩れる。

 淡く白色に煌めくバレルは、造形物として美しくすらある。

 銃口から両側面に伸びた窪みを覆うようにして、筆記体で文字が刻まれているようだが解読は出来ない。

 そして胴体に一番近い部分にローマ数字の「Ⅲ」か?


「レイ、みて。カッコいい」


「おぉ、すげーな。すげーけどこっち向けんな、あぶねえ。絶対何かの武器だろ、それ」


 銃口をこちらに向けながらフリフリと見せびらかせてくる。

 さっきまで、私じゃないいいいとか、喚いてたくせにこれだもんな。

 シェルター作ってた時の凛々しい姿はどこへやら……。


 何が原因で武器が発現したのかは不明だが、危険な状況ということに変わりはない。

 こんな得体のしれない通路が墓なんてまっぴらだ。

 事象を整理し、状況に適応しろ。

 そういえばさっきのアナウンス、会話出来てたか?

 こちらから問えば何かしらの状況打破が出来るかも!


「聞こえるか? どうしたらいい? どうしたらあいつを倒すことが出来る?」



「大丈夫か、レイ……」


「やめろ、そんな目で俺を見るな……。さっきの声にヒントをもらおうと思ったけど、ダメらしい。それと、頭はまだ大丈夫だ、ありがとう」


「そうか、ならよかった。とうとうイモの出番かと思って肝を冷やしたよ、私は」


「冷やす肝なんてないだろうが。しかも、お前にとってのイモは神様か! 過信しすぎだ!」


 都合のいいことに黒い生命体にいまだ反応はない。

 N2のせいでそんな茶番を繰り広げてしまったが、頭は一向に冴えなかった。


 すると、N2が、


「ひとまず私にやらせてくれないか。何だか負ける気がしないんだ。これなら色々出来そうな気がする」


 と、自身の右腕を眺めながら話す。



 まずは攻撃を受けないことに徹する、という条件で、俺はやつの下へN2を送り出した。


 N2が離れていくにつれて、周囲が暗くなっていく。

 俺から数メートル離れ、N2の姿がぼんやりした頃、突然前方で火花が飛び散った。

 黒い生命体がN2に銃弾を放っている。

 ひるませて止めの光弾をぶつける魂胆か?

 がしかし、全く当たる気配がない。

 N2が凄まじい速度で移動しているからだ。


 先ほど腕に発現したバレルから空砲のようなものを打ち出して、動く方向に加速している。

 N2が空砲を打つたびに、銃口から僅かに炎が上がり、連続してシャッターを切ったような光景が目の前で繰り広げられている。

 しばらくの戦闘が続いたが、突然N2があからさまに地面に倒れこんだ。


「もういいや、ちょっと疲れた」


 おいおいおい。

 そこまで律義に条件を守る必要はないぞ……。


 チャンスとばかりに黒い生命体がチャージを始める。

 しかし、N2に動く気配はない。


「条件はもういい! 思いっきりやっていいから、立て! N2!」


「もう立てないー」


 ばかやろう!

 気付くと俺は全力で駆けだしていた。

 間に合うか?

 いや、間に合え!



 目前で黒い生命体の光弾が放たれた。

 と思ったのだが、なぜか破壊されたのは黒い生命体のバレルの方だった。

 逆噴射したのか?

 どうして……。

 ひとたまりもなかったのか、黒い生命体は足から崩れ、かろうじて蠢いている。



「ふふん! ざまあみろ! 私たちに楯突くとこうなるのだ! 肝に銘じておけ!」


 いや、だから銘じる肝はねぇぞと。


 でもいったいどうやったんだ?



「N2、どういうこと?」


「やつの銃口に、さっき崩れた壁の小さな瓦礫をいくつか入れておいてやったのさ。私の動きが止まれば大技を撃ち込んでくることは予想できたからね。逆に自滅を誘ってやったのさ。やつのスピードより、私のスピードの方が、圧倒的に勝っていたから思いついた作戦だけどね」


 それに、新たな技を見せて、また真似されても困る、と付け足した。

 こういう時のN2の戦闘センスは恐ろしいな。

 右腕の能力が気になるところだが、また改めるとするか。



 黒い生命体に止めをさして、パーツを回収しようと思っていた矢先、黒い生命体からピッピッと、不思議な音が流れ始めた。


「レイ、まずい! こいつ、生命維持活動を放棄した! 自爆する気だ!」


「ざけんなよ! 完全にやばいだろ、こんな狭い場所で!」


 ただの攻撃でさえあの威力……。

 それを、命をなげうって、破壊目的のために使ったとしたら……。


「私に考えがある! 今は思いっきり反対方向へ走れ!」


 深く考えている時間はない。

 言われるがまま、やつに背を向け全速力で走る。


「おそらく、どうあがいても爆風からは逃れられない! だからある程度の距離を取ったら、私の今の全力でエネルギー弾を打ち、爆風を相殺する!」


「出来るのか!? そんなこと!」


 息を切らしながら、N2に問う。


「やる、やるしかない! 絶対に君を死なせない!」


「…………まかせた!!」



 おそらくN2だけなら空砲を使って逃げ切れるかもしれない。

 だがあえて並走してくれているN2の言葉を疑う意味はない。



 ゴゴッ・・・・・!


 後方で爆発音。

 爆発の余波が到達するまでは一瞬だった。


「レイ、伏せて……!」


 N2が渾身のエネルギー弾を放つ。







 爆風は相殺された。


 いや、圧殺された。




「お前、その武器しばらく禁止な」


「いやー、私もここまで威力があるとは……」


「禁止な?」


「ぬぅ……。はい……」



 通路の天井にはぽっかりと穴が開き、死闘? を生き延びた俺たちを、いつの間にか晴れ渡った夜空と星々が迎えてくれた。



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