11話 アイボウ

 N2は、音を立てまいと後退りをする俺とは真逆の行動を取った。

 先刻エネルギー弾を打ち放った時と同様の構えをしながら、即座にバレルに変形した右腕は黒い生命体に向けチャージを始めていた。

 やつに聴覚があるのかは不明だが、できるだけ音をたてまいと両手を交差させ「やめろ!」の合図を送るが、別の意味で捉えたであろうN2は、左手をくいっと持ち上げ「任せろ!」のジェスチャーを送ってきた。

 違う、そうじゃない。



 俺の少しばかりの努力と期待は空に消え、耳を劈く音を発しながらN2は更に右腕にエネルギーを蓄えていく。


「レイは部屋の外に!」


 後ろにある壁を破壊する威力のエネルギー弾を、この狭い部屋で放ったらどうなるかくらい俺でも分かった。

 今更止めても手遅れだろう。

 素直に指示に従い、部屋の外で待機する。


 一瞬の静寂の後、轟音と共にエネルギー弾が黒い生命体目掛けて放たれた。

 反動でN2は部屋から弾き出され、やつに着弾したエネルギー弾が部屋の中を眩い光で包み込む。

 部屋は相当頑丈な作りになっているらしく、内部が倒壊したりゲートが破壊された様子もなかった。

 しかしN2のエネルギー弾は、部屋から少し離れた俺の位置ですら地面の揺れを感じさせたのだ。

 直撃していれば穴が開く程度では済まないだろう。


 飛ばされたN2が起き上がり、内部の様子を確認しようとしたとき、噴煙舞う部屋の内部から一筋の光弾がN2目掛けて発射された。

 油断していたN2は光弾をかわし切れず、右腕を変形させたバレルで受けようとするが、やつの放った光弾はN2に倒される以前よりも威力が数段上になっていて、N2の右腕は半壊した。


「N2!!」


 膝を立て、かろうじて前を向くN2。

 右腕はバチバチと火花を散らし、次のエネルギー弾は打てないことを物語っていた。

 そして部屋の噴煙が収まるにつれて、黒い生命体がN2にバレルを向けながら姿を現した。

 N2の攻撃を如何にして防いだのかは不明だが、やつは反撃ができる状態で俺たちの目の前に立っている。

 状況は絶望的だった。


「よくも……。よくも私の技を! これはお前が簡単に真似してよいものではない!!!」


 N2が激高し、黒い生命体に言葉をぶつける。

 先程やつが反撃として打ち放った光弾は、N2のエネルギー弾と酷似していた。

 威力も申し分ない。

 こいつには何らかの適応能力があるのかもしれない。


「これはレイが私に思い出させてくれた技なのだ!! レイと私の技なのだ!! それをよくも!!」


「N2……」


 N2、お前そんな風に思ってたのか。

 そりゃ悔しいよな、散々弄ばれてきた相手に、あっという間に真似されて。

 怒っていい……怒れ。

 でも、今じゃあない。

 まだ俺たちは生きてる。


 チャージを始めた黒い生命体に闇雲に突っ込んでいくN2を回収し、いったんこの場から離れる。

 幸いやつが光弾を再び放つには、しばらくのクールタイムが必要らしく、すぐさま追いかけて来るといった様子はなかった。


「レイ! 放してくれ! 私はやつを許せない! このままでは気が済まないんだ!」


「あぁ分かってる。でもお前はもうエネルギー弾は撃てないし、それにお前がやられたらそれこそおしまいだ。一度冷静になれ、きっと手はある」


「ぬぅううう」


「落ち着いたか? これでも一応頼りにしてるんだぜ、相棒!」


「あいぼう……?」


「あぁそうさ! 一緒にやつを破壊してやろう!」





「私は……


 レイの……


 相棒……ッ!」





 瞬間、N2の全身が温かい光に包まれる。

 と同時に、アナウンスが俺の脳内に響く。


(「N-2049がマナコンダクターにアクセスを要求しました。      ――――承認します」)


 は?

 なんだこれ!

 N-2049ってN2のことだよな?

 何を承認するだって?


 痛みはないが思わず頭を押さえる。


「レイ! どうした! 私もどうしたこれは!」


「俺が聞きてえよ! N2、なんか変な声聞こえたか!?」


「声? なんのことだ? 大丈夫か、頭が痛むのか?」


 どうやら声は俺にしか聞こえていないらしい。



(「N-2049の欲求を満たす条件と方法を検索中……     ―――完了。


 最速手段として、残量マナメタル15%すべて使い[arts'No_03]を作成します。よろしいですか?」)



 また意味の分からないことを!

 なんか承認求められてるし!



「N2、マナメタルってなんだ!?」


「わからない、どうしたんだ急に!」


 だろうな。

 よしもう全部YESだ!

 でも急に爆発したりしたらどうしよう。

 少し離れておくか?


 幾度か聞きなれない単語の承認を要求されたが、意味は理解できなかったので、脳内でYESを繰り返し返答していると、やがてN2のコアの部分から、なんとも美しい白く発光した液体が流れ出てきた。

 うわぁ、と慌てふためくN2。


「これは勝手に! 私ではないぞ!」


 N2は、さながらおもらしがバレた小学生のような反応をする。

 液体はやがて、壊れたN2の右腕にまとわりついていく。

 再びうわぁ、と腕を振り回すが、白い液体は徐々に光を失っていき、固形化していった。

 光を完全に失ったとき、N2の右腕はバレルに変形していた。

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