10話 ゲート
まるでガスバーナーのように、勢いよく炎が燃え盛る音がした直後、轟音と共にエネルギー弾は放たれた。
壁の亀裂にエネルギー弾を撃ち込んだ反動で、高さ7メートル程の位置から、うわぁと間の抜けた悲鳴を上げながらN2がこちら側へ飛んでくる。
「おっとと、へへ、ナイスキャッチー!」
「うむ、助かった。ありがとう。さて、壁は無事に吹き飛んだかな?」
噴煙舞う空中を確認すると見事に穴の開いた壁が姿を現した。
頼もしいというか恐ろしいというか、改めてN2の規格外さを思い知る。
いったい腕から何が飛び出したらこの光景に変わるのだろうか。
亀裂自体は俺の手が届かない高さにあったが、元々崩れかけていたのか、壁の半分が倒壊し、壁の向こう側へと繋がった。
壁の向こう側は更に通路が続いているかと思っていたが、今度は新たな壁が現れた。
壁と言っても単なる壁ではなく、中央部にゲートを持つ壁だ。
材質は金属、ゲートの上部に赤くぼんやり光るランプを除いては、これといった装飾もない。
しかし、様子がおかしい。
ゲートは扉が上に持ち上がるタイプのものらしいのだが、もう既に開きかけていて、隙間からは僅かに白色の光がこぼれている。
開きかけているといってもN2がやっと通れるほどの小さい隙間程度だったが、違和感を感じ取るのには十分だった。
先ほどの衝撃で?
いや、扉が上には持ち上がらないだろう。
では元々こういう半開きのつくりなのか?
恐らくそれも違う。
先ほどN2が壊した壁の奥にあったんだ、違うとみていい。
近付くべきか否かを悩んでいると、知らぬうちにN2がゲートへと歩いていて、
「お邪魔しまーす」
といって中に入って行ってしまった。
戻って来い、と呼びかけても平気平気ー、といって気には止めてくれなかった。
先ほど壁を壊したことで調子に乗っているのだろうか。
まったく、こっちが無防備になるということを理解してほしい限りだ。
俺の心配をよそに、ゲートの中から何やらガチャガチャと音がし、やがて開きかけていたゲートが徐々に解放されていく。
どうやらN2が中から操作し、ゲートを開けてくれたようだ。
奥は暗くて見えなかったが、ゲート前でこちらを向いたままドヤ立ちをしたN2が迎えてくれた。
ドヤ立ちという表現が適切かどうかは分からないが、とにかくN2は誇らしげだった。
ゲートが徐々に開くにつれて、内部が明らかになっていく。
ゲート内部は5メートル四方の部屋になっていて、ゲートから漏れ出ていた白色の光の光源は、部屋の中心に鎮座しているガラスケースだった。
大きさは人の頭部と同等かそれ以下で、縦長の長方形の形をしている。
何かを保管していたのだろうが、ガラスケースは破損していて、ただの光を放つオブジェとなっていた。
N2がオブジェを不思議がって近付いていくと、白い光がより一層強くなった。
それと同時に、部屋の内部が更に明るく照らされていく。
その時俺は一番見たくないものを見てしまった。
遭遇してはいけないものと遭遇してしまった。
部屋の奥には黒い生命体がいた。
しかし停止しているのか否か、俺たちを襲ってくる様子は今のところない。
N2に開けられた穴が効いているのか、その場を動くことはなかった。
俺は思わず声を潜め、気付かれずにこの場を去りたかったが、天真爛漫な相棒の存在を忘れていた。
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