9話 ツウロ
ミニN2が発見した穴の奥には謎の通路があるらしい。
俺達はこの星の更なる情報と、謎の解明のため、通路に向かっている最中だ。
N2によって作られたトンネルを使い目的地へ向かっているのだが、内壁は土を固めただけにもかかわらず、頑丈に出来ている事に驚いた。
突然黒い生命体がトンネルの入り口を塞ぎ、生き埋めにされるなんてことはないだろうが、警戒して見張り役のミニN2をトンネルを掘った穴のクレーターの外で待機させている。
トンネルの中にもちろん光源はないが、N2自身が発する光のおかげで足元を見失わずに済んでいる。
しかしこうも狭い通路だとやはり襲われた時の不安がどうしても頭をよぎる。
実際こちらから発見できるとしたら今のところ視認するしかないわけで、黒い生命体が銃弾を飛ばすバレルを持っていた以上、視認してからでは遅いといった事態にもなりかねない。
「索敵のレーダーとかあると安心なんだけどな」
「ふむ、レーダーか。確かにいくら私があいつに負けないとしても、あいつの標的が私からレイに移ることも無きにしも非ず……。ということをふまえると、作っておいても損はないかもね。ただ……材料がない」
始めに黒い生命体を倒した時に回収したパーツはほとんどミニN2の作成に使ってしまったため、余っているパーツで高度な機械製品を作るのは不可能らしかった。
もし次に材料が手に入ったらレーダーのような索敵能力のある製品を作ろうという話に落ち着いた。
そんな話をしつつトンネル内を歩くこと10分ほどが経った頃、俺達は例の通路までたどり着いた。
N2の報告通りの情報で概ね正しく、天井は丸削りの半円系、内壁はコンクリートで出来ていた。
通路とはよく言ったもので、この暗さではハッキリと確認できないが、左右には先が見えない程の道が続いているらしかった。
俺達の通ってきたトンネルは通路に対し天井付近の位置にあり、何もなければ通路に降り立つことが出来ないのだが、トンネルを掘った際にできた土を通路に落とし、クッションとすることで通路に無事下りることが出来た。
不安定な着地故にお尻を強打したが、怪我という怪我は、幸いせずに済んだ。
後で割れていないか確認しておこう。
つい先ほどまでいたトンネルを見上げながらあることに気付く。
「これ、戻れるのか…?」
同じようにトンネルを見上げながら、N2はしばし考えたのち、
「レイが思いっきり私をあそこまで投げる」
「それで?」
「私が上から泣く泣くイモを落とす」
「……それで?」
「レイはイモを食べながら悟る。いい人生だったと……」
「死んでんじゃねーか! どーすんだよおいー」
「まぁ、なんとかするさ。任せておけ!」
全く説得力のないN2の発言に励まされるが、実質退路は断たれてしまった。
あぁ愚かな俺よ…。
こんなことになるならスナック菓子を食べておけばよかった…。
結構な絶望気分を味わっている俺を差し置いて、あっちに行ってみよう! というN2は、俺と共に探索するのが楽しいようだった。
通路内部は僅かに風が吹いている。
N2の、風の吹く方に何かあるはず、という根拠のない理論に従い、トンネルから降りて左方向へ進むことにした。
音も匂いもしない。
コンクリートの壁が、ただただ続く通路をひたすら歩く。
少し前を歩くN2が、時々俺の方を振り返り、様子を伺う。
「泣くな」
「泣いてねーよ! 泣きてーけど!」
聞こえるのは息遣いと靴と地面が擦れる音程度。
時々N2がからかってくるが、恐怖と空腹でつっこむ元気もなくなってきた。
そんな俺を見て更にN2がからかう。
まさに悪循環。
そんな堂々巡りを10回ほど繰り返したあたりで、ようやく景色に変化が訪れた。
通路の行き止まりだった。
疲労困憊の状況でのこれは、流石にこたえた。
心のどこかで何かが折れる音がした。
歩いた時間は30分程度だったが、俺にとっては状況が相まって永遠にも感じた時間だった。
座り込む俺をよそに、N2は行き止まりの壁を調べている。
「風はこちら側に吹いていた。風の抜け道がどこかにあるはず」
期待していた出口ではなかったようだが、N2の言う通りどこかへ通じる風の抜け道がきっとどこかにあるはずなんだ。
重い腰を上げ、N2と違う箇所を探す。
光源は僅かな光を放つN2のみなので、風の抜け道を探す作業は困難極まりなかった。
実際のところ壁を手触りで探しているようなもので、高さ10メートルの壁を相手にするのはとても苦しい作業だ。
ミニN2達を展開させて探すのはどうかと提案したが、実際彼らを操り操作するのはN2自身であって、視界が増えるのはカメラを積んだ個体だけなので無駄とのことだった。
こういうとき高性能なロボットなら、あたりをパァっとスキャンして目的のものを見付けてくれる、とかやってくれそうだが、今のN2にはそれは期待できない。
もし制作に必要なパーツがあれば、話は全く変わってくるのだけれど。
行き止まりの壁と、その両端の壁の手の届く範囲を調査したが風の抜け道を見付けることは出来なかった。
N2の手が届く範囲は調査済みだったので、俺の担当分の調査範囲を終える前に、N2は別の調査方法に実行を移していた。
別の調査方法といっても、余っているミニN2を動く足場として使い、手の届かない範囲まで調査するといった、シンプルなものだ。
コンクリートで出来たツルツルな壁でも、僅かな凹凸があるらしく、その凹凸を足場のとっかかりとして利用できるらしい。
壁の調査をすること20分。
正面の壁の高さ7メートルあたりで、亀裂が見付かった。
どうやらそれが、風の抜け道で間違いないらしい。
「この亀裂から向こう側に風が抜けているね。どうやらこの行き止まりの壁は、向こう側とこちらを、遮断するために設けられたものみたい」
俺が落下したら間違いなく大怪我をする高さから、N2は冷静に分析している。
一度途絶えかけた絶望的なこの状況に、一筋の光が指したようで、少しだけ気分が楽になった。
よし、と何かを決意したN2が、
「レイ、少し離れてて」
と注意を促してきた。
先の見えなくなった通路に背を向けながら後退りをする。
あらかた予想はしていたが、こいつ、打ち込む気だ。
エネルギー充填中、あたりは一層明るくなり亀裂の全貌が明らかになる。
直後には跡形もなくなるであろう亀裂に、ささやかな別れを告げ、N2が放ったエネルギー弾が壁を打ち壊し、こちら側と向こう側を繋いだ。
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