8話  コノサキ

 シェルターと宇宙船の監視のため、ミニN2を一体置いていき、N2と俺は先ほどの穴へ向かっていた。

 周囲は相変わらず夕景を帯びていて、未知の星での不安を一層引き立てる。


 穴へ向かう途中、ミニN2を肩に乗せて歩いていた時とは違い、N2は何かを見つけると近くへ寄り、また俺のもとへ戻り速度を合わせて歩いている。


 N2は情報収集も大事な役割だっ、とか言っていたけれど、なんというか、小さな子供と散歩でもしているような気分だった。

 いつまた黒い生命体が現れてもおかしくない状況だし、N2もこの有様なので、周囲の警戒だけは怠らないようにしないとな。


 ふとN2が話しかけてきた。


「レイは、どうしてイモを食べるんだ?」


「んー、お腹がすくから? いや、芋をというより、食物を摂取してそこから栄養を得るんだよ。N2は電気を栄養として動けてるんだろ? 俺たち人間は電気じゃなくて、芋とかの食物からその栄養をもらってる。 まぁ栄養って言っても色々あるんだけどな」


「食物をエネルギーとして……か。 なら、その人間が必要とするエネルギーを持つものならイモ以外で代用できるか?」


「あぁ、食べても腹を壊さないものならな。実際水にも、岩とか地面の成分とか入ってるし。ただまぁ、その分多量に摂取しないとだけど」


「なるほどー」



 そんなに芋を俺に食わせたくないのか。

 何がN2をそこまでさせるのかは分からないが、何かを納得した様子のN2はおーけー!! と言いながら先走って行ってしまった。


「なんか使い方変わってきてるし……。」



 そんなやりとりをしつつ穴へとたどり着いた。

 幸い危険な目にも合わず来れたが、腹が減った……。

 禁断のスナック菓子に手を付けるか迷っていた頃N2がある提案をしてきた。


「レイも中へ行こう。きっと一緒の方が安全だよ」


「まあ、そうかもな。ただ、この狭さじゃ無理だろ」


「私もそう思う。だから、少し時間がかかるがレイが通れる大きさまで広げようと思う。も、もしかしたら他にもイモが見つかるかもしれないしっ」


「何で最後のほう照れてんだよ。あ、でもミニN2達向こうに置いて来たんじゃないのか?」


「チップならここにある。端材もその辺のを使えばいいし、問題ない」


 と、左腕をガチャガチャ変形させてチップを取り出してみせた。

 最初作ったものよりも小型化しているような気がする。

 お得意のアップデートだろうか。


「では、さっそく作業に取り掛かる。と言っても、今回はレイと私は現場監督だがな」


 N2はチップをポイと金属端材に投げ込み、シェルター作成の時とはまた違った出で立ちのミニN2達を作り上げる。

 出来上がったミニN2達はてきぱきと作業に取り組み始めた。

 入り口の岩を砕き、土をかき出し、外壁をたたいて固め崩れないようにする。

 また土をかき出し、外壁を固めを繰り返していく。


 その様子を腕を組み仁王立ちで見守るN2。

 俺がシェルター作成の効率を見ていた時にしていたポーズだったが、どうやらそれを真似ているらしい。

 今回俺がやることは特になさそうだ、と思い周囲の警戒に専念した。


 N2の思惑通り、やはり芋がいくつか出土した。

 その度に作業が止まるが、トンネル作成は着実に進んでいく。

 3個目の芋が出土し、N2の興奮が治まった数分後、先行していたミニN2の一体によりこの穴の繋がり先が判明した。

 小型カメラを積んだミニN2からの映像を介し、N2が神妙に報告してきた。


「レイ、この穴の先はやはり更に大きな空洞に繋がっていたよ。だが……しかし、これはいったい……」


「勿体ぶるなよ、大きな芋の巣でも見付けたか?」


「いいや、そうではないのだが…。さっきは大きな空洞と言ったが、これは最早通路だな。この先の空洞は円を半分に切ったような形の通路になっている。高さ10メートル程ある天井は丸く削り取られていて、円の切り口、つまり平らな部分は非常に精密に作られている。土ではないな……。しかし、土よりも硬度は上だろう。それが、見える範囲ではあるが、この通路に敷き詰められている。単純に土を叩いてもこうはならないと思う」


「なるほどな。大きさから察するに黒い生命体の巣ってわけでも無さそうか。ただ地上から消えたあいつが潜んでる可能性、あるいはこの通路を使った可能性は高そうだな」


 行くか行かないかの二択とすると、おそらく行く方が危険は増すだろう。

 N2が作ってくれたトンネルを使わないのは申し訳ない、というのは建前で、「この先」がある以上引き返す選択肢はない…。

 それに危険な目に遭っても、N2が何とかしてくれる……よな……?



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