未知の星

1話  ソウグウ

 スクリーンにはお気に入りの映画。

 右手にはポップコーン。


 怒濤の徹夜の大仕事だった。

 泣く子も逃げ出す作業を何とか乗りきり、自分への褒美と、控えた大連休へのささやかな祝杯を船内で挙げている。


 いやしかし、相当に疲れた。

 ポップコーンを噛むのが、やっとなくらいだ。


 スタンバっていた睡魔を迎え、シートを倒し、マジで就寝5秒前。

 数十回は見たであろう映画の続きを一時中断しスクリーンを収納すると、そこには輝く星々が描いた吸い込まれるような景色が広がっている。


 やけに流れ星が多い。

 そういえば、たしか今日は流星群だったっけか……。

 

 到着まで、あと1時間程度。

 この景色を肴に寝るのも悪くない。

 少し遠回りするためにスペースナビの経由地を設定し直し、星空の揺蕩いに身を任せた。






 どれくらい眠っていたのだろうか……。

 予定では、目的地の到着を告げるアナウンスと共に目覚めるはずが、様子がおかしい。

 揺れが止まっている。


 走行中は少なからず揺れを伴うものなのだが、それがないということはつまり、宇宙船が着陸済みということを意味している。

 アナウンスを聞き漏らすほど熟睡していたのか?

 

 船内はどうも薄暗く、おそらく主電源が落ちている。

 恐る恐る船外を覗くとやはり着陸しているようだったが、着陸した地点は霧が立ち込めていて周囲の確認が出来ない。

 ナビによる着陸地点は星によって複数設定されているのだが、この静けさと霧の濃さは俺の知っている星の中では心当たりがない。


 操作したスペースナビの目的地を間違えたか?

 それに、下手な操作でもしない限り、主電源は落ちないはずなんだが……。


 眠気を覚ましながら、主電源を入れなおす。

 ……反応なし、多分バッテリーの中身が空だ。

 そんな途方もない距離を飛んだのか?


 ひとまず予備電源に切り替え、船の状況を確認する。


 ……マジかよ。

 通信機含め、その他諸々の機能がイカれてる。

 この未知の星からすぐに脱出、というわけにはいかなそうだ。


 宇宙運送業では安全過ぎるが故に、宇宙での遭難は自己解決というのが主流だ。

 宇宙船に使用される機器はとても頑丈で、ある程度の事故には耐えうるように出来ていて、コックピットごと大破(=死)でもない限り故障の心配はない。

 現に今までこういった出来事に遭遇したこともなかった。


 それに万が一故障したとしても、最低限近くの星まで飛んで修理する備えはある。

 つまり、人がいない星にわざわざ故障しに行くようなことでもない限り、遭難の心配はない。


 現在発見されている主要な惑星以外は、生命反応がなく、さながら文明も発達していない。

 その事実は政府からも発表されていて、おそらくこの星も例外ではないと思う。

 つまり、状況は最悪。

 帰ったら、『機械に頼りすぎた運送屋の末路』とかいう本でも出版しよう。


 救助の期待はできないが、ひとまず船外へ出て探索する必要があるな。

 もしかすると、同じように遭難した人がいるかもしれない。

 幸いにも外気センサーは気圧、温度の安全性を示していて、防護スーツなしでの船外活動が可能らしい。



 意を決して外に出た。

 10メートル先は目視できない程の濃い霧が立ち込めている。

 船を見失わないようにしばらく散策すると、地面に錆び付いた金属片が落ちていることに気付く。


 かつて文明が栄えていた星だったのか?


 実はこれ、かなりの大発見なのでは? などと考えていると、船内にいたときは気が付かなかった金属を叩く音のようなものが聞こえてきた。

 不用意に近づくべきではないが、この際しかたがない。

 なるべく気配を消しながら、音のする方へ向かう。



 宇宙船からそう遠くない場所に、音の原因はいた。

 音の発生源は、カツン、カツンと地面から何かを掘り起こそうと蠢く、小さなガラクタの集合体だった。



 距離にしておよそ10メートル。

 大きさは15センチくらいか?

 人の形をしたガラクタの集合体が、おそらくその辺で拾ったつるはし状の金属片で、地面をほじくっている。


 取り出そうとしているのは、爪の大きさ程の歯車のようだ。

 ガラクタは今まで見たことのない、機械的であるようで、はたまた人為的な不規則な動きをしている。

 地面に何度かつるはしを振り下ろし、そいつは突然首だけをくるりとこちらに向けた。


 まずい、目が合った……!


 つるはしを一度持ち直し、よたよたとこちらに近づいてくる。

 体が小さく、動作も弱々しいさまに油断してか、あるいは興味本意かは分からないが、そいつがとうとう目の前にまで来てしまった。


 するとそいつは、腕を精一杯伸ばし持っていたつるはしを俺によこし、更にもう片方の腕で掘り起こそうとしていた歯車の方を指した。


 俺に手伝えと?

 念のため、いつでも逃げられるように警戒しながら、そいつの後に続き歯車の埋まっている場所へと歩き出す。


 いったい何が起こっているのかわからないが、不思議と危険な気配はしない。

 まだ半分ほど埋まっているであろう歯車の採掘作業を始めるが、人型ガラクタの何倍の大きさもある俺にとっては、容易い作業だった。


 土から拾い上げた歯車を眺める。

 大きさの割に少し重いが、何の変哲もない金属製の歯車だ。

 他にも似たような金属片はそこらに落ちているのに、なぜこれを?


 立ったまま歯車を眺めていると、足元で見せて見せて! と言わんばかりにガラクタがぴょこぴょこ跳ねている。

 何でそんな必死に? と含み笑いをしつつ、すっかり警戒を解いてしまった俺は、今度はきちんと膝をたたんでそいつに手渡してみた。

 この歯車をどう使うのだろうかと期待を込めつつ見守っていたのだが、ひとしきり眺めたのち、ポイっと投げ捨ててしまった。

 どうやら目当てのものではなかったみたいだ。



 また、よたよたとどこかへ向かおうとするガラクタ。

 おい、つるはし忘れてるぞ、と声をかけようとしたその時、目の前のガラクタが金属がぶつかり合うような甲高い音と共に吹き飛んだ。


 聞きなれない音に、全身が逃げ出せと危険信号を発していたが、時既に遅し。



 霧の向こうから、黒々とした金属を全身にまとった機械生命体が現れた。



 身長は俺の腰あたり、2足歩行の足はあるが胴体の部分の代わりに頭のような部分がある。

 更に、頭の隣には拳銃のバレルのような物体を積んでいる。


 状況が分からず、ガラクタとその機械を交互に見る。

 すると、ガラクタが起き上がろうとしたと同時に、先程の甲高い音と共にガラクタが更に後方へと吹き飛ばされた。

 明らかに無防備なガラクタが、この黒い機械生命体に攻撃されている。


 黒い生命体は、俺には目もくれずガラクタに歩み寄っていく。

 目の前で何が起こっているのか全く分からない……。

 けど何故か、一方的にやられている小さなガラクタを助けたいと、そう思った。


 近くに落ちていた金属片を投げつけて黒い生命体を怯ませ、すぐさま横たわる小さなガラクタに駆け寄る。

 拾い上げようと手を伸ばしガラクタと触れ合った刹那、眩しいほどの光がガラクタを包み込んでいく。

 突然の出来事に、思わず身を引く。

 ガラクタの発光はすぐに収まり、それと同時に体がズシリと重くなる。

 貧血に似たような感覚に、立っていることもままならず膝を着いた。


 いったい何なんだ!?

 何が起きてるんだ!?


 ガラクタは光が収まると、ジキジキと右腕を変形させながら黒い生命体の方へ駆けてゆく。

 変形が終わると右腕は拳銃のバレルに変化していた。

 黒い生命体は銃弾を放ち迎え撃つが、ガラクタは右腕のバレルでガードをしながら、スピードを落とさず一直線に向かっていく。

 更に加速し宙に飛ぶと、黒い生命体に向かってバレルからズドンと何かを放った。

 凄まじい音がして、黒い生命体が爆散し黒煙が上がる。


 何なんだこれは、いったい何を見せられているんだ。

 それともまだ夢の中なのか?




 黒煙からガラクタが、右腕を元の状態に戻しながら俺の方へと向かってくる。


「お前はいったい……」


 体がさらに重くなり、俺の記憶はそこで途絶えた。

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