2話 コトバ
気が付くと船内にいた。
ガラクタが黒い生命体を倒して……気を失って……それから……。
どうやって戻ったんだ?
まだ怠さの抜けない体を起こすと、先ほどのガラクタが本棚をひっくり返す勢いで本を取り出している。
こいつが外から運んでくれたのか?
暇潰し用に小説やら図鑑やらを船に積んでいたのだが、ガラクタはどうやらそれらを読み漁っている。
ガラクタは俺に気が付くと、活字の多い小説を俺に差し出した。
不思議に思っていると、小説のタイトル部分を、とんとんと叩いて指し示している。
読め、ということなのだろうか。
「桜の咲く頃に…?」
半信半疑ながらもタイトルを読み上げると、ガラクタはこくこくと頷いた。
続いて別のページを開き、指し示された部分を読み上げる動作を数回繰り返した。
ガラクタは納得したようなそぶりを見せると、今度はコックピットの方へ向かっていった。
いったいなんなんだ。
コックピット内をぐるりと見まわしスピーカーを見付けそれに触れ、先ほど黒い生命体を破壊した時のように体を変形させた。
といっても巨大化したり小型化したりというわけではなく、内部構造を作り替えてるといった感じだ。
ひとしきり変形が終わると、ガラクタはくるっと振り返りこう言った。
「たすケテクレて、ありがトう」
喋った。
しかも、日本語をだ。
スピーカーを体内に作ったのか?
文字の羅列を音にしたような、抑揚がいまいちな部分が目立つが、こいつは俺の使う言語を話し始めた。
声は若干高く、女性っぽさを感じさせる。
反応を見ているのだろうか、俺の方を見ながらそいつはじっとしていた。
頭は混乱しきったままだが、とりあえず返答をしてみる。
「ど、どういたしまして……」
ガラクタはうんうんと、頷く仕草を見せ、言葉を続ける。
「ワタしは、えいエンとさまヨっていタ。きがツクとココにいて、ナニもわかラないままオソワれ、はかイされてはサいせいすることヲくりかえシテいた。きミにふれたトキ、たたカいかたをおもイだした。
おかげでワタしは、くりかえすことカらぬけだスことがデきた。ありガとう」
破壊?
それに再生と言ったか?
しかも戦い方って、どういうことだよ。
何かとんでもないことを聞いたような気がするが、このガラクタに敵意はないらしい。
ガラクタは更に続ける。
「きミは、どうシテここへ?」
俺も聞きたいことが山程あるが、それを堪えてガラクタの問いに答える。
無視して反感を買い、先程の黒い生命体のようになりたくはないからな。
「仕事帰りに遭難したんだ。だから何か目的があって来たわけじゃない。それに、どうやってここへ辿り着いたのかも分からない」
「そうダったノか。なんニせヨ、タスかっタ。あらタめテ、かんシゃすル」
そんな大したことはしてないんだけどな。
それからしばらく、お互いの現状把握が始まった。
ガラクタには以前の記憶がないこと。
故にいつから、何故この星にいるのかが分からないこと。
ガラクタは何故か、俺にとても感謝していること。
小説で会話文を覚えたこと。
俺の発声から、文字の発音を覚えたこと。
それらをパターン化して、会話が出来ていること。
他にも、ガラクタが知っていることを色々だ。
ガラクタの背中には、型番のような文字があり「N-2049」と記されていたので、そこから取って、ガラクタを「N2(エヌ・ツー)」と呼ぶことにした。
さっきの会話のやり取りが、N2の会話の上達に繋がったらしく、俺の名前を教える頃には随分と流暢に話せるようになっていた。
「レイ……だね。了解した」
学習能力の高さといい、戦闘能力の高さといい、いったいN2は何の目的でここにいるのか。
ここまで自由に動けて、尚且つ、自ら思考する機械だけでも、現代科学での実現は難しいと思う。
ましてや金属片を、武器やらスピーカなどに変形させる技術なんて……。
しかも、はるか昔から存在していた……?
N2は『戦い方を思い出した』と言っていたが、何かの戦闘用に作られたものだったのか……?
うん……わからん。
ともあれ、この星を脱出するという目的は変わらない。
現状、宇宙船を修理しないとどうにもならないのだが、先ほど見せられたN2のトンデモ技術を垣間見て、淡い期待を浮かべる。
「N2って、もしかして宇宙船直せたりする?」
「可能だよ。見たところそこまで複雑そうなものでもないし」
「おお、よかった。出来れば直してくれるとありがたいんだけど…」
「いいよ。レイには助けてもらった恩もあるし。ただ、私の体以外の部分の修復となると、別に部品が必要だよ」
「外にたくさん散らばってる金属とか?」
「あれは錆びててダメだ。もっと上質な金属がいる」
「なら、さっきN2が壊した黒いやつは?」
「ふむ……。今まで襲われるばかりで、考えたことはなかったけれど、あいつのパーツなら使えるものがあるかもしれないね」
また襲ってきてもN2がいるし大丈夫だろうと、安易な気持ちで俺たちは先ほどの黒い生命体に襲われた現場へ再び向かった。
現場へ辿り着くと、異変を感じたN2が辺りを見回す。
「おかしい。レイを宇宙船に運ぶ前は、もっと多くのパーツが散らばっていたはず」
「え、こわ。あれでまだ生きてたのか? それとも、他にも仲間がいるとか?」
「後者は、私は長い間ここにいたが、私の知る限りではあの黒い生命体しかここにはいないはずだよ。前者の方が可能性はあるかもしれない。なんにせよ、残っているパーツを回収して一度船に戻ろうか」
俺たちは拭い切れない不安を抱えたまま、船へと戻った。
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