ヤマブキのせい
~ 三月二十九日(金)
ア:LV25 道:LV19 ~
ヤマブキの花言葉 金運
アイシャさん用の、お花のアクセサリーを暇さえあれば作り続けて。
工作スキルが百に達しましたよキャンペーン。
難敵がうごめく草原から。
たくさん摘んできたお花で。
頭のてっぺんから足のつま先まで。
アイシャさんを飾り付けてあげました。
「いい色ね。黄色……、じゃなくて。オレンジ……、でもなくて。むむむ」
そんなアクセサリーを嬉しそうに身にまとい。
くるくると回り続ける、自称元王女のアイシャさん。
「綺麗なお花の色なんだけど、これ……」
どうやら、お花の色を言い表す言葉を探していらっしゃるようですが。
「山吹色よりはちょっと濃いから違うし……。まあいいか! ねえ、このお花は何て名前?」
「さあ」
知らないことにしておきましょう。
ほんとのことを言うと、君、怒りそうだし。
だって、そのお花の名前。
ヤマブキです。
――ここは、危険と隣り合わせの場所と名高い『逢魔の街』。
灰色の割り石模様で統一された美しい街並みは。
土と花ばかりの村で長く過ごした俺たちに。
高級感と。
そして、少しの冷たさを感じさせます。
そんな土地の。
なにが危険なのかと問われれば。
「昨日、道久君が家に帰って寝ている間に下見しておいたのよ! 早速案内してあげるわ!」
「行きません。あと、アイシャさんも二度と近寄っちゃダメです」
この、大きな石造りの街には。
人類にとっての大いなる危険。
つまり。
……賭博場があるのです。
「怖い場所じゃないわよ。むしろ、楽々大金が手に入る楽しい場所よ?」
「手ぇ出したの!?」
「稼いだ稼いだ!」
「はあ……、金運もいいのね、君は。でも、今稼いだ分でやめときなさい。ここ、かなり飲まれるらしいですし」
「そうなの? ……わかった。道久君がそう言うならやめておくわ」
やれやれ、止めることが出来て良かったのです。
でなければ。
次回すった分をさらに取り返そうとする悪循環。
春休みが終わるまで。
ギャンブルに明け暮れることとなるでしょう。
……さて。
俺たちが向かっているのは。
必須クエストのうち一つをくれる屋敷でして。
このクエストをクリアしないと。
クラスの皆さんと、春休みが終わるまでには倒そうと誓っている。
魔神への挑戦権が手に入らないのです。
まあ、結果として俺とアイシャさんが役に立つとは思えないのですが。
それでも、参加することに意義があるわけで。
だから一風変わった、非常に手間のかかる課題に挑むことにしたのです。
「で、アイシャさんはどれだけ持っているのです?」
「何を?」
「何をって。『ニナの木』ですよ」
「になの木ってなにの話? なにの木なのよ、になの木ってなになに?」
「…………酔った」
今の呪文、なに?
めまいで頭がくらくらします。
でも、君が言いたい事はおおむね理解できたので。
実体の方に、携帯でクエストの情報を見せてあげました。
「この、緑色したツリーフォークを倒すとですね、三回に一度くらい『ニナの木』という素材を貰えるのですよ」
「ふーん。……ああ、これ。家を建てる時に使う、やたらと値の張る木じゃない」
「そうなのです。これを十本手に入れてですね。……見えてきましたね。あの屋敷を増築するのですよ」
「……うわ。何よあの気持ち悪い建物」
クエストの依頼主は没落貴族。
名誉を切り売りして、自分のあばら家を大きくしたがっているというストーリーだったはずなのですが。
クエストクリアの報酬、『女王より下賜されたコイン』を手に入れるため。
すべてのプレイヤーが十本の木材を好き勝手に家にくっ付けて。
しかも、運営はこれを面白がって放置しているせいで。
今や没落貴族のあばら家は。
ヘタなダンジョンより複雑怪奇な異様へと変貌してしまったのです。
「しかも、でかいのです」
「ええ。……ちょっと、これどこから入るのよ?」
ほんと。
既に入り口が分からない。
携帯の攻略情報には丁寧に入り口のスナップショットがアップされているのですけれど。
そもそも、この写真の場所がどのあたりにあるのかすら分からない。
「頭に来た。十本の木を手に入れたら、めちゃくちゃなくっ付け方してやるわ」
「その発想が、世間の常識なのでしょう」
だからこんなことになってしまったのですよ、アイシャさん。
少しは自重してくださいな。
……俺たちは、屋敷の周りをぐるりと回って。
そして、ちょうど屋敷から出て来た方々と鉢合わせ。
ご丁寧に、入口へのルートを教わったのですが。
その時、意外な情報も聞くことになったのです。
「ツリーフォーク、出現場所が変わったらしいのよ」
「え? どのあたりなのです?」
「ここからめちゃくちゃ遠い北の海岸沿い」
「ええ!?」
海って。
下手すれば、往復だけで一日かかるのです。
「だからあたしら、海までの道すがらのクエストをこなしてのんびり行こうと思ってるのよ」
「これだけのために往復するのもバカみたいだからな」
拠点となる町や村を転々と変えて。
のんびりと北を目指す。
皆様には可能かもしれませんが。
俺たちには無理なお話です。
でも、絶望に暮れる俺の耳に。
能天気な言葉が聞こえたのです。
「……だったら商店で買えばいいじゃない」
「君はあれですか。マリーアントワネットですか」
ニナの木は、一本五千ゴールド。
十本も買ったら、俺が必死な思いで揃えた装備一式と大差ない金額になります。
だというのに。
こいつは情報を教えて下さった皆さん、十人程に向かって。
さらにめちゃくちゃなことを言うのです。
「じゃあ、情報料代わりに、みんなの分も買ってあげるわよ」
このバカな発言に。
一同揃って呆れのため息。
……そんな俺たちは。
たったの一時間後。
街の酒場でパーティーを開いていました。
「すげえぞアイシャ!」
「アイシャさん! いや! アイシャ様!」
「お礼に、ここの払いは俺たちに任せろ!」
「さあ、アイシャさんを称えて、今夜は飲み明かすぞ!」
大言壮語。
大ぼら。
そんなことを考えていた一同が。
手のひらを返したように、アイシャの強運を称えます。
一同を率いて賭博場に入ったアイシャさん。
元手の三千ゴールドが。
あれよあれよという間に、六十万ゴールドという途方もない金額に膨れ上がり。
宣言通り、全員分の『ニナの木』を商店で購入して。
さらに宣言通り、屋敷へめちゃくちゃなくっ付け方をしたのです。
皆さんへの気前のいいプレゼント。
こんなにも喜んで下さっていますが。
さっそく、浮いた時間で明日は賭博場に集合だなどと盛り上がっており。
悲惨な未来予想図しか俺の目には見えません。
……でも。
オーク防衛戦といい。
今回の荒稼ぎといい。
君が有名になって。
俺も、どういうわけか鼻が高いのです。
「いやあ、アイシャさんはすげえな!」
「俺たちと一緒にプレイしませんか?」
「残念だけど、クラスの人と一緒に遊んでるのよ。聞いたこと無い? 『白の精霊・ジャスミン』」
「おお! あの人のいるパーティーのメンバーだったのか!」
「私、危ないところを助けてもらったことあるわよ?」
「俺は昨日、パーティーメンバーの騎士に助けてもらった!」
「『黒の詩人・ヤング』さんな! あの人もめちゃくちゃ上手いよな!」
そして四人組のお話で、皆さん盛り上がり始めたのですが。
なんと。
みんな揃って有名人だったとは。
これは驚きなのです。
「そうか! あんたたち、五人のパーティーだったんだな!」
「あのパーティーのメンバーなら納得だ!」
「さしずめあんたは、『金髪のギャンブラー・アイシャさん』ってとこか?」
そして皆さん。
五人をたたえて改めて乾杯と盛り上がるのですが。
……ええ、そうですよね。
気付いていましたとも。
先ほどから、俺に話しかけてくれる人がどなたもいらっしゃらないことに。
と、いうわけで。
せめて邪魔にならないように。
『山吹色の役立たず・道久』は。
廊下に立っていることにしました。
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