カリフォルニアポピーのせい
~ 三月二十四日(日)
ア:LV12 道:LV5 ~
カリフォルニアポピーの花言葉
私の希望を入れて下さい
みんなでオンラインのRPGをしてみましょうと。
誘ってくださったクラスの皆さん。
今日はそろってまーくん宅へ集まって下さいました。
こういうのを、オフというのだそうなのですが。
専門用語が多すぎて、難しい。
まるで海外旅行に来ているようです。
……ああ。
もともと旅行という名目だったから。
これでいいのか。
そんなクラスメイト達にいろいろ教わりながら。
楽しそうにパソコン画面に向かっているのは
軽い色に染めたゆるふわロング髪をサイドテールにして。
オレンジ色が目に眩しいカリフォルニアポピーを一輪、頭のてっぺんに揺らしています。
「しっかし、どうしてお前らは『
お調子者のやべっち君が、ホットコーヒーをすすりながら文句を言いますが。
「しょうがないのです。こんな本格的なゲーム、門外漢なのです」
「門外おとめなの」
俺は隣に座った穂咲と顔を見合わせて。
同時に肩をすくめると。
まーくんが、ノンアルコールのビール片手にキッチンから顔を出して。
「いや、お前らが慣れてたら困るんだよ。今回は、ゲーム慣れしていない二人がプレイするとどうなるかってデータが欲しいんだ」
自分のつまみ用に買って来た焼き鳥を大皿に盛って。
ダイニングテーブルに置いたので。
俺とやべっち君、そして向井さんが。
パソコンの置いてあるリビングから移動して。
思い思いに串を取ります。
――どうやら、今回の企画について坂上さんから話があった時。
穂咲はおばさんに相談したらしく。
それがまーくんへスルーパスされて。
すべてをおぜん立てしてもらったのですが。
「今更ですが、パソコンもソフトも、ほんとにタダでいいのですか?」
「おお、ちょうど知り合いのとこのゲームでな? ゲーム慣れしてないテストプレイヤーいらねえかって聞いたら二つ返事でソフトとパソコン送ってきやがった」
しかもバイト代まで貰えるという信じがたい境遇に。
一緒にゲームをやり始めた皆の頬が膨れてしまったのですが。
「みんなは自腹なのに……」
「悪いな、ゲーム慣れしてるとダメなんだ。その代わり、春休みの間はがっつりデータ送れよ?」
「それは良いのですが、ダリアさんとひかりちゃんが帰ってきたら迷惑じゃありませんか?」
「あいつら、一ヶ月はロシアのばあちゃんとこだ。気にしねえで平気だよ」
そう言いながらつくねを美味しそうに頬張るまーくんは。
うめえうめえと喜んで食べる向井さんと。
楽しそうに焼き鳥談義を始めてしまいました。
……まーくんの説明では。
新作ゲームを出したばかりだというのに、既に次回作用のデータが欲しいという事らしく。
オンラインゲームに慣れていない人が、何を楽しむのか、どこでつっかえるのか調べたいとのことで。
有難いことに、こんな環境を作ってくれたのです。
「それにしても……、やべっち君」
「なんだ? このねぎま狙ってたのか?」
「いえ、ネギをそんな悲しそうな顔で渡されましても。……そうではなく、皆さん揃ってEスポーツ研究会のメンバーだったなんて驚きなのです」
「そうか? ……ああ、まあ、道久の言いてえことは何となく分かるけどよ」
だって。
よく、ゲームの話をしているやべっち君だけは何となく分かるのですが。
他のメンバーがあまりにも。
きっと同調してくれるであろう穂咲へ振り返ると。
しきりに頷きながら。
「百歩譲って、
俺と一緒に見つめる先。
足に水色のギプスを巻いて、鳥カワを幸せそうにかじっているのは。
「ははっ! あたしは元々、ヘビーゲーマーだったんだぜ?」
「いや、だって向井さん……」
「そうなの。
拳法部で、最強の名を一年生の頃から欲しいままにして来た武道少女。
俺よりも背が高くて、俺なんか小指の先で倒せるほどの実力を持つ向井さん。
ゲームとは対極にいる方と感じてしまうのですけど。
「驚きなのです」
「いやあ、あたし、小さい頃から空手教室に通わされててさ。その反動で、練習の無い日はインドア三昧。どっちが好きかって聞かれたらこっちを取るぜ?」
だから両方の部に入ったんだなどと仰る向井さんですが。
「ん。……うちの研究会、練習きついって、評判」
「ははっ! まだまだ! 茉莉花、あめえぞ。そんなんで世界狙えるかっての」
そんなはっぱに。
あの物静かな坂上さんが、そうだよねなどと力強く頷いていますが。
「いやいや向井、煽るんじゃねえよ! まつりん、やると決めたらまた倒れるまでプレイし続けちまう!」
「そうだ。……坂上も、加減を考えろ」
やべっち君と、そして物静かな『詩人』こと細谷君。
男子二人が坂上さんを心配すると。
坂上さんは舌をぺろっと出して。
チャーミングに肩をすくめます。
しかし、ゲームが。
世界的に、スポーツの様な競技とされていることは知っていましたけど。
こんな身近に、真剣に取り組む方がいたなんて。
「じゃあ、向井さん。俺と穂咲、足手まといじゃないですか?」
「ははっ! 普段ならな! ……でも今回は春休み限定で気軽に楽しむつもりだから。お前らも適当に楽しめばいい」
「はい、そうするのです。穂咲も、やってみたい事があるらしいので」
そんな言葉に、全員の顔が穂咲を見つめると。
坂上さんに操作方法を教えてもらっていた穂咲は。
嬉しそうに答えたのですが。
「お料理コンテストに出たいの!」
これには、一同大笑い。
「…………変?」
「穂咲ちゃんらしいなおい! RPGなのにか?」
「まあ……、いいと思うぞ」
「ははっ! 毎日開催されてるあれな! いい目標じゃねえか!」
「ん。……でも、会場、遠い」
そう、その辺は俺もネットで調べて知りました。
今の俺たちじゃたどり着けるとは思えない町で開催されているのです。
「それにさ、いつも通りじゃねえか!」
なんて楽しそうに笑いながら。
向井さんが俺の背中をバシバシ叩いてきますけど。
「いつも通り?」
「ああ! 穂咲が安心して料理を作れるように、お前さんが守ってやらねえと!」
「……いえ。俺は俺でやりたい事があるのですけど」
「へえ! なにやりてえんだよ」
「あんなの」
俺が、パソコンのモニターを指差すと。
そこには幻想的な景色が広がっており。
操作方法を教わる穂咲が、わちゃわちゃと動くその傍に。
立ち尽くす俺の分身を見て。
みんなが眉根を寄せて振り返ったので。
説明してあげました。
「ぼーっと、景色を眺めていたいのです」
そう言ったら。
穂咲以上に笑われました。
「道久らしい!」
「ああ、あたしも応援してやるぜ! ぼーっとしろ、ぼーっと!」
「おや? ……待て」
そしてほそヤング君が画面を指差すと。
今度はみんな揃ってお腹を抱えて笑い出します。
「なんです? 何がそんなにおかしいのです?」
「こ、このバグは……!」
「十秒ちょい操作しねえと自動でしゃがむはずなのに!」
「やばいって秋山! なんで立ちっぱなしなんだよ!」
「ん。……きっと、スキル欄に『秋山』って入ってる」
そして、坂上さんにあるまじき毒舌に。
みんなは息もできないほど笑うのですが。
「いやいや。だって、まったくレベルが上がらないので先に進めなくて。これくらいしか楽しめないのです」
「なんだそりゃ?」
「このゲーム、ゲームオーバーの罰則厳しいじゃないですか。レベルダウン」
「それがどうした」
「俺、穂咲といると、こいつの攻撃ですぐ死ぬんですよ」
だから極力別行動。
護衛なんてもってのほか。
そう説明した俺に、みんなは怪訝顔。
「いや、なに言ってるんだ、秋山」
「このゲーム、プレイヤーに攻撃当たらないぜ?」
え? うそ?
だって、現に今まで十回はこいつに殺されてますけど?
そしてまーくんが、携帯でどこかへ電話をかけて。
先方とお話しながら、俺たちに説明するには。
「…………テストプレイ用のキャラだから、お互いの攻撃だけは当たるようにできてるらしいぞ?」
「いや、その設定消してください。じゃないと俺だけレベルが皆さんに追いつきませんよ」
「えっと……。来週くらいになるけどなんとかするってさ。他にバグはねえかって聞いてるけど?」
「なら、この立ちっぱなし病も何とかしてください」
そんなお願いをしてみたものの。
メンバー一同の嘆願により。
俺の得意技は、据え置きとされました。
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