十一

十一


「今回の男もどうしようもねえやつだったなあ。旨そうだったけど」

「そうだねえ、ま、あの男の家族とやらもあいつの奇行を知っていて怖くて何もできなかったってことだよねえ。まあお待ちな。待てば待つほど旨くなんだろ?」

「まあ、そうですね。最近は死体より霊の方が旨い」

「おお、怖いねえ」

太郎と昭子が怖いことを言い合っている。


「火をつけて完全に燃やすなんて、それだって正気の沙汰じゃあねえだろうに」

侍はメロンソーダのおかわりを太郎に頼みながら、まあ、あの家族も遠くに離れるんだろう。あの土地は手放さないだろうし、手放せないだろうから、放置していれば誰にも気づかれないしな。と、付け加え、数年もしたら木々や雑草に覆われてあの場所はなくなったも同然になるだろうと言うと、


「あの男はどうするんだい? 太郎」

メロンソーダを侍に出した太郎にこの先の話を振る。


「待って待って。私にも教えてよ。何してたの? 私ここで待ってたのに。みんなまた消えちゃうんだもん」

分厚いノートを抱えたたまこがどこからともなく現れ、三人に事の成り行きを話してくれとせがむ。


たまこは三人に置いてかれたのだ。


「たまこちゃん、留守番ありがとう。おかげで心置きなく仕事ができて助かったぜ」

太郎がたまこの頭を撫でた。


「あとで話してやるから待ってなさいな」

昭子もたまこの頭を優しく撫でる。


「おでん盗み食いしてねえだろうな」

侍が勢いよく立ち上がり、台所に走る。おでんの鍋をのぞく。自分が食べたいのだろう。

盗み食いなんてしないよ。とたまこが侍に詰める。


そんなやりとりを横目に太郎が、

「あいつはあそこで延々と掘れない土を掘っているさ。時がくるまでね。その後は瑞香さんに殺される」


意味深に鼻で笑った太郎を見て、二人は、納得したとばかりに頷きあった。


「時が来るまでねえ。ほんと太郎ちゃんも人が悪い。って、人じゃあないか」

「全く、楽しませてくれるやつだ」


何言ってんですか、そんなことしませんよ。と畏まって言っている太郎も、隣で笑っている昭子と侍の姿も、夜が明けてオレンジ色の光が線状にさしてきたのに消されるように、夜の彼方へと薄く溶け込んで行った。


たまこだけを残して。


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