七
七
気づくと瑞香は畑の上に立っていた。
「へえ、ここかい、あんたが埋まってるところっていうのは」
なにやら嬉しそうな声で畑の土を歩いている昭子のことを瑞香はチラと横目で見、「すみませんが気をつけてくださいね、その辺、実は私の頭のところなんです」と申し訳なさそうに昭子に教えた
「あらそうかい。それは気づかなんだ」
頭の位置から少し退けた昭子に小さく頭を下げた瑞香は、メロンソーダ片手に侍が辺りを歩き回って何かを探している。
こんなところにまでメロンソーダって。そんなに好きなのかしら。と、こんな状況にもかかわらず可笑しくて知らぬ間に顔がにやけてしまう。
三人はまるで遠足にでも来ているかのごとく浮かれているように見えた。
でも、どこにも司の姿はない。辺りを見回してみてもただ夜の闇があるのみだった。
「あの男は本当にこの畑に来るんでしょうか」
「来るぜ。確実にな」
デニムの着物をを着ている太郎が襟を直してさらりと言い、目を細めて遠くを見た。
「じゃなかったらここへは来ないわよ」
紅色の着物の裾を土につかないように引き寄せながら昭子が先を指差した。
「ほら、おいでなすった」
長羽織を粋に着た侍が太郎と昭子の隣りに寄って行き、「こっち来て見てみなんせい」と瑞香を手招きする。
瑞香は三人の元に寄り、三人が目を向けている方角に自らも目を向けると、見慣れた家とその辺りがぼうっと浮かび上がって来た。
家の庭と反対側に位置するこの畑は生まれて始めて瑞香が野菜を作った畑でもある。
そして、そんな愛おしくもあった畑に自分の死体が埋められている状況に、やはりなんとも形容し難い気持ちになる。
家から揺れ出てくる白い煙はなんだろう。首を前に伸ばし目を細める。
煙は家の窓から出るとゆっくりと家の周りを一周し、それから庭に植えてある梨の木のところで止まり、木の根元から上まで行ったり来たりした。
その後、庭の片隅にある小屋の方へ流れていった。
自分の記憶の中にある小屋とは随分違う。小屋は古びており、所々木が剥がれているところもある。
南京錠はどこにも見当たらない。既に外されていた。
白い煙は小屋の周りを同じように周り、剥げた木の合間から中へ吸い込まれていった。
しばらくするとすうっと外に出てきた。
そのまま小屋を抜けて自分たちの方へ近づいてくる。
白い煙は徐々に人の型に変わっていった。
それは遠目に見ても司のものだった。
「おいでなすったぜい」
太郎が誰にともなく言うと、瑞香が吸い込まれるかのように一歩、また一歩と司へ近づいていく。
「思い出しました」
瑞香は司を目にしたとき、すべてをはっきりと思い出した。
太郎と侍と昭子は知らぬ間に影の中に消えていき、畑に残るは瑞香ただ一人だけとなった。
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