第26章

郁美は闇の中にいた。しばらくすると、アーモンドを横にしたような


切り口から光が差し込んできた。


それが自分の瞼だと気づいたときはずっと後だった。




自分の視界に入って来たのは、マスク姿の医師と看護師だった。


その医師が「奇跡だ」というのをかすかに聞いた。続いて両親が自分の


顔を覗き込むようにして、見つめているのがわかった。


二人とも焦燥しきった顔だった。




郁美の脈を計っていた医師から安堵の表情がこぼれる。


「一時はどうなるかと思いましたが、血圧も心拍数も正常に戻りました。


 もう、心配ないと思います」


担当医の言葉を聞いて、両親は力なくそろってパイプいすに身を預けた。


しかし、ふたりとも疲れた表情ながらも安堵の笑みがこぼれ落ちていた。




郁美は美術室で天宮に頭を彼の両手で挟み込まれたところから、


一切の記憶がなかった。


ある記憶といえば、こん睡状態のときに見た天使と空を飛びながら


会話したことだった。




その時、天使がこういったのを覚えている。




『あの方を、呼ばれたのでしょう?あなたは召喚呪文を唱えたのですよ』




召喚呪文?あの方?何のことかさっぱりわからない。


それにそれが夢だったのか、それとも臨死体験だったのかも判断できない。


ただいえることは、

それが限りなく現実感を帯びていたことだけだった。




私は何者かを召喚した。そうあの天使が告げていた。


その何者かは江野先生ではないらしい。


では、一体私は誰を召喚したというのだろう?そもそも私になぜ、


そんなことができるのだろう?


郁美はまだ混濁した意識の中で思った・・・・・・。

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