第21章

 南海トラフで異変が起きていた。南海トラフとは、日本の太平洋側、


南東沖の海底にある深い断層のことで、

その深さは水深4000メートルに及ぶ深さにある。


この断層は活発な動きをみせる地震発生帯でもある。


今まさに、その活断層が活動をはじめたのだ。


午前6時04分。最初の揺れは地面が波打つように震動した。


東海地方を中心に、岐阜、愛知、静岡―――そして東京。


気象庁の震動計は、マグネチュード8.4を記録した。築年数を経た建物は、


家屋といわず鉄筋のビル、マンションさえ倒壊した。朝早い時間とあって、


ほとんどの人々がそれらの建物の中にいた。


突然の天災に、パニックに陥る人々。


多くの人がガラスや倒壊した建材に、押しつぶされた。ありとあらゆる道路に、

毛細血管のような亀裂が走る。


海岸に近い地域では、地割れが起きて深いクレパスが現れた。


その裂け目に落下していく車、人・・・・・


人々の狂乱した叫びが、響きわたる。




急激な地殻変動は、地面を陥没させ、そして隆起させた。その時間は約30秒。




名古屋では東海道新幹線をはじめ、東海道本線、名鉄名古屋線など全線の鉄道が緊急停止した。


各種幹線道路では追突や正面衝突など、交通事故が相次ぎ中には爆発炎上する


事故もあり、多数の死傷者が出た。




横浜市、川崎市では東海道本線はもとより、小田急江ノ島線など全線が不通。


地割れにより、線路が各所で寸断された。他に漏れず、交通事故が相次ぎ、


これも死傷者多数。


東京湾アクアライン近くのコンビナート群で火災が発生。


可燃料に満たされたタンクが次々に爆発した。


その黒煙は2000メートル上空までにも達した。




コンビナート群に被害が起きたのは三重県でも同様だった。


四日市コにある多数のコンビナートも可燃料が漏れ、


何かの火が引火。凄まじい爆発と共に紅蓮の炎が吹き上がった。




火災は家屋やマンション、ビジネスビルでも発生。


現在の消防能力では、到底手に負えない状況に陥っていた。


そのため、焼死する人、煙に巻かれるなど一酸化炭素中毒で


死亡する犠牲者が、うなぎ登りにその数を増やしていった。




それにも増して被害が甚大だったのは、1300万人の人口過密都市―――


大都会東京だった。


マグネチュード8.1を記録した大都会の惨劇はそれまでの地震被害の予想を


はるかに上回った。




山手線は全線を緊急停止したが、あおれにもかかわらず


間に合わなかった車両が脱線し、乗客の待つホームに突っ込んだ。


ホームにいる乗客たちが悲鳴さえ上げられず、なぎ倒されていく。




早朝ということと、耐震設計されたビル街であることおもあって、


新宿区、千代田区、文京区は比較的被害者の数は少なかったが、


耐震設計されていたにもかかわらず、多くのビルにクモの巣状に


ヒビ入れが走った。それに崩壊防止用鉄線が張り巡らせている


窓のガラスは、そのほとんどが窓外の景色を見れぬほど


蜂の巣の断面のように割れている。




お台場なその埋立地では液状化現象が誘発され、


立ち並ぶマンションなどの建物の多くが傾いき、沈んでいった。




むしろ人的被害が大きかったのは、世田谷区、練馬区、足立区などの


住宅街だった。古い家屋は全壊し、比較的新しい一戸建て、アパート、


マンションなどは全壊、もしくは半壊した。


それに伴い、各所で火災が発生。立ち上る黒煙が、逃げ惑う人々の


方向感覚を狂わせた。




東海地方及び東京のテレビ、ラジオ各局はパニックを起こしていた。


すべての番組を中止して、大地震の被害を訴える。




『ただいま、東海地方と関東にマグネチュード8を超える


 地震が発生しました。では各地域の被害状況と避難所を


 お知らせします・・・・』


被害状況を伝える男性アナウンサーの声は震えていた。


次々にアナウンサーの手下に、手書きの原稿が投げ込まれる。


その原稿を手にとって握っていく男性アナウンサーの手は、


その声以上に震えていた。




八王子市にある、林田郁美が入院する総合病院。


そこでは医師や看護師が右往左往していた。


停電によって、病院内の電源が切れたのだ。手術中の医師の罵声が飛ぶ。




なおも昏睡状態にあった林田郁美を取り巻く


医療機器もその動きを停止していた・・・・・。

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