第11話

桐谷が出ていってから1時間後、意外にも律儀なタイプだったらしく『お邪魔しました』と連絡がきていた。

感心しながらテレビを見ていればさっき桐谷とも話した殺人事件が報道されていた。

もちろん、犯人はさっきまでここにいた桐谷。

『連続殺人犯』『その理由とは?』の文字。

そんなのこっちが知りたいと心の中で呟く。

専門家は『無差別殺人の可能性も十分あるでしょう』なんて言っていて全く参考にならなかった。


「1人でこんなに考えて馬鹿みたい……」


今頃桐谷は何も考えないでお風呂に入ったりだとか、お酒を飲んだりしているのかもしれない。

そう考えれば無性に腹が立つ。

私は冷蔵庫を開け、缶チューハイを手に取った。

あまりお酒に強い方ではないが、そんなこと気にしていたらお酒は永遠に飲めない。

プシュッという音をたてた缶チューハイに口をつけ、流し込んでいく。

缶を手に再びテレビを見れば未だに事件について芸能人と専門家が話していた。

どの推測も合ってるとは言えなくて、やっぱあいつすごいんだな……と感じた。

感心するような内容ではないが、素直にそう思ってしまったのだから仕方ない。

再度缶チューハイを流し込めばほとんど空になっていた。

いつもよりも飲むペースが早く自分でもビックリしてしまう。

これも桐谷のせいか?とすら思えてくる私は末期なのかもしれない。


「絶対正体を暴く……!」


缶を机に置き、1人メラメラと燃えていく。

しかしその熱はあっさり冷め、いつの間にか眠りへと引きずり込まれていた。


目が覚めたときには9時過ぎをさしていて、寝ぼけた頭で携帯をいじっていれば『10時に昨日のカフェに集合』の文字。

飛び起きた私は急いで着替え、軽く化粧をして部屋を出た。

電車に乗り込み、ギリギリ間に合うかどうかの時間。

桐谷に少し遅くなることを伝え、はぁ……とため息をついた。

久々にお酒なんて飲んだせいかもしれない。

電車に揺られながら後悔する。

最寄り駅につき、早足でカフェに向かえば既に桐谷の姿はあった。


「ご、ごめん。

遅くなっちゃった」

「全然大丈夫だよー。

まさか遅刻するとは思ってなかったけど」

「あー、ちょっとね」

「まあ別にいいけどさ。

昨日彼のバイト先の人に話を聞けるようにするって言ったでしょ?

一応今日の11時にここで待ち合わせにしといたから」

「本当にできたの?」

「僕を誰だと思ってるのさ」


そう言って桐谷は笑った。

確かにこの男ならできそうだと妙に納得してしまう。

桐谷は店員さんに『アイスコーヒー1つ』と頼んでいた。

店員さんが背を向け見えなくなったことを確認し、再度向き合った。


「ねぇ、待ってる間暇だからさ。

彼の話、聞かせてよ」

「は?

それって和人のこと?」

「もちろん。

いくら僕でも知らないことはあるからね。

せっかくの機会だから」

「別にそんな話すこともないよ」

「えー、じゃ彼のどこを好きになったの?」

「どこって……」

「恥ずかしがらないでよ。

なんか僕まで恥ずかしくなっちゃうじゃん」

「別にそんなこと知らなくてもいいでしょ?」

「じゃ質問を変えるよ。

次の質問に答えてくれたら貸し1ってことで」


真剣な表情をしている桐谷を見るのは初めてで、嘘を言っているとは思えなかった。

それなら少し桐谷のことがわかるかもしれない。

私は『わかった』と了承した。


「彼って……」


そのとき、携帯のバイブ音が響いた。

それは桐谷のもので、どうやら電話だったらしい。


「ごめん、ちょっと出てくるね」


それだけ言うと席を外してしまった。

桐谷の姿が見えなくなり、私は息を吐いた。

真剣な表情をするものだからどんな質問なのかと息を飲んだが、一気に脱力する。

店員さんが持ってきてくれたアイスコーヒーを受け取り、『ありがとうございます』とお礼を言った。

桐谷が座っていた席には既にホットコーヒーがあり、私のために頼んでくれたことを察した。

やっぱ律儀な人だと心の中で呟いた。


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