第30話 救出 二
嵐は皐を背に走っていた。
皐は嵐の速さに恐怖を感じ、ただただ落ちない様にしがみついているしかなかった。
「着いたぞ」
暫くすると、嵐がある建物の前で止まり、皐に言った。
皐は、ぎゅっと瞑っていた目を開いて建物を見た。
妖怪がいる気配をまがまがしく感じた。
皐は嵐から降りようとした。しかし、上手く降りられず、もたついた。
そして、やっと降りられると思った時、上手く降りられず嵐から落っこちてしまった。
「いったぁ…」
皐は横たわりながら言った。
「とろいな、早く行くぞ」
嵐は特に心配することなく、先に建物に入って行った。
「あっ、待ってください」
皐は慌てて立ち上がり、走って嵐の後を追い掛けた。
二人は階段を上がり、部屋へ向かっていた。
皐は呪符を手にし、警戒しながら進んだ。
一つ、人の気配が沢山ある部屋の前に辿り着いた。
「繻樂の言う通りだな」
嵐が警戒しながら言った。
「はい、行きましょう」
皐はそう言うと、そっと戸を開けた。
ざわざわっ
一気に部屋がざわついた。
役人達は両手を後ろで縛られ、両足首も縛られ、体操座りにされていた。
今は妖怪がいなかった。
「急ぎましょう、嵐」
「当たり前だ」
二人は急いで役人達の縄を解いていった。
「嵐、それにあなたは…」
一人の役人が皐に聞いた。
「我は薙矢皐。学者、助手階級です。皆さんを助けに来ました」
皐は縄を解きながら答えた。
「さあ、妖怪と戦う気のある奴はここに残れ!ない奴はここからすぐに立ち去れ!」
嵐は強い口調で言った。
役人達は皆で探り合い、どうするか相談していた。
その時、外から妖怪が襲ってきた。
「ひぃっ」「うわぁ」と、役人達の怯える声が聞こえた。
嵐はすかさず妖怪の前に出て、口から光線を吐き、妖怪を倒した。
皐も呪符で応戦した。
「おい、どうするんだ!」
嵐が役人達に怒鳴る様に聞いた。
役人達は怯え、おどおどしていたが、戦う二人を見て感化されたのか、戦う意思を見せた。
しかし、武器が無かった。
その時、階段の方から土嵐がやって来て、武器が降って来た。
役人達は状況が理解出来ず、きょとんとした。
「早くそれを取って戦え!」
嵐は叫んだ。
役人達はハッとした様に慌てて武器を取り、応戦し始めた。
「ここは大丈夫だな。我等は次の部屋で他の者を助けて来る」
嵐は役人達に言った。
「はいっ!大丈夫でありますっ!」
一人の役人がそう答えると、嵐と皐は階段をかけ下りた。
(あの時の風…霞のだ。くそっ!あいつは何を考えてるんだ!)
嵐は先程の土嵐に霞の気配を感じていた。
園蛇と颯月は政府の建物の一部屋を目指して走っていた。
この広さの中を緊急事態時にちんたら歩いているわけにはいかなかった。
二人は無言で走り続け、ある一部屋に辿り着いた。
妖怪の気配がする。颯月は勢いよく戸を開けた。
「大丈夫か!」
颯月がそう言いながら、部屋を見回すと、襲われかけている役人と、縄で縛られ怯える役人達がいた。
「薬術六式、切体!」
園蛇が素早く呪符を手に、襲いかけている妖怪の腕を目掛けて、呪符を飛ばした。
妖怪の腕は切り落とされた。
「颯月、ここは任せて。早く役人達の縄を解いて下さい」
「ああ」
園蛇は妖怪と戦い、颯月は役人達の縄を解いていった。
「ありがとう」
役人達が口々に言った。
「それより早く妖怪達を何とかしないと。でも武器が…」
颯月が悩んで言うと、役人が答えた。
「武器ならあの押し入れの中に」
「!なんでそんな所に?」
戦いながら園蛇が聞いた。
「裏切り者の霞が入れて行ったんです」
役人が答えた。
(謎ですね。こんな身近な場所に置きますか?普通)
園蛇は考え込みながら戦った。
役人達は武器を取り戦いに参戦した。
「颯月、ここは任せましょう。次の部屋へ」
園蛇はそう言うと、部屋を後にした。
颯月も「後を頼みます」と、一言言うと、園蛇について行った。
綜縺と繻樂は歩いて向かっていた。繻樂に走る体力が無いからだ。
それに、繻樂の向かう部屋は案外近かった。
「本当にお一人で大丈夫ですか?」
綜縺が最後まで心配した。
「大丈夫だ。心配するな」
繻樂はそう言うと、一つの建物の中に入ろうとした。
繻樂が担当する部屋がある建物だった。
「お気をつけて」
綜縺は一礼すると、走って自分の役割の部屋へ向かった。
繻樂は部屋の中に入った。
すると中には大臣達が囚われていた。
「の、呪いの女…」
「何故、ここに」
大臣達は驚き、口々に言った。
「今はそんな事言っている場合ではないでしょう。助けに来ました」
繻樂は言いながら、縄を解き始めた。
「お前が招き入れたのだろう。霞と共闘して」
「そうだ、そうだ。この国を滅ぼすつもりだろう。呪いの女め」
大臣達は助けられたにも関わらず、繻樂に罵声を浴びせた。
「外には妖怪が沢山います。今、我の仲間と役人が必死に戦っています。皆様の力も貸して下さい」
繻樂は罵声など気にもせず、頭を下げて言った。
「呪いの女の言葉など信用出来ぬ」
大臣達が疑いの目を向けた。
「信用出来なくても、この妖怪の気配は分かりますよね?この国を助けて下さい。我も尽力します」
繻樂はもう一度頭を下げ、懇願した。
大臣達はそれでも繻樂を疑った。
「戦うか、戦わないかは自由です。我は次の場所へ行きます。まだ囚われている大臣の方々がいらっしゃるので。失礼します」
繻樂はそう言うと、部屋を出て行った。
残された大臣達は茫然とした。
綜縺も大臣が囚われている部屋に辿り着いていた。
「そなたはっ!」
綜縺が部屋に入ると、綜縺のことを知っている大臣が声をあげた。
「はい、雪城綜縺です。皆様を助けに参りました」
綜縺は答えながら、縄を解いていった。
「ありがとう、綜縺。助かった」
「いえ、当然の事です。それより…」
綜縺は、現状を説明し、協力を求めた。
大臣達は快諾し、綜縺は次の部屋を目指し、その場を後にした。
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