第29話 救出 一
繻樂達は、前とは違い、近道を使い早足で、政府の建物へ進んでいた。
皆、喋ることなく、無言で進んだ。その空気は重々しかった。
皆思う所があり、静かだった。理由は霞だった。
何故裏切ったのか。
そんな事を各々考える中、三、四日が経ち、政府の建物の前に辿り着いた。
辿り着くと、門は招き入れるかの様に誰もいないのに自然と開いた。
「来いと言う事でしょうか」
綜縺が言った。
「挑発されているな」
嵐が殺気立って言った。
「挑発されているのはお前だけだ。単細胞」
繻樂は呆れた様に言い、乗っている嵐の腹を蹴った。
「ここで考え、立ち止まっていても仕方ありません。行きましょう」
園蛇が言った。
皆、その言葉に賛同し、中へと歩みを進めた。すると、退路を断ち切るかの様に、門が大きな音を立てて閉まった。
皐が門を確認するも、びくともせず開かなかった。
「やられましたね。これで逃げ場が無くなりました」
園蛇が顎に手を当てて言った。
「勝って戻って来ればいいだけの話だろう」
繻樂は政府内の先を見据えて、言った。
「随分と強気ですね。風間繻樂」
その時、扇を開き、口元に当てながら、霞が姿を現した。
「霞様!」
繻樂が驚き叫んだ。
「霞、てめぇ…」
嵐は威嚇しながら、霞を睨み付けた。
繻樂は嵐から降りた。
「霞様、貴方は本当に妖術師に身を売ったんですか?」
繻樂は嘘で有って欲しいと願った。
「何を今更。この状況を見てもまだ我を仲間とお思いで?」
霞は皆をバカにした様な顔をして言った。
「じゃああの土嵐は!?何故我々をバラバラに?」
繻樂は身を乗り出して聞いた。
「あれは皆をバラバラにして、一人一人倒そうとしただけですよ?まぁ、失敗しましたがね」
霞は淡々と答えていく。
「伽嵯茄木宮様は何の恨みがあって、妖術師側に?」
綜縺が厳しい眼を向けた。
「まあ、色々とね。あなた達に教える義務はありませんよ」
霞は目を伏せて答えた。
「さあ、無駄話はここまでにしましょう」
そして霞はゆっくりと眼を開けて言った。
「無駄話だど!?霞てめぇ、ぶっ殺す」
嵐は霞に突撃していった。
「おっと」
霞はわざとらしく声をあげながら、ひらりと嵐の攻撃をかわした。
「では、いつ我らのいる刀馬の部屋まで来られるか、楽しみにしていますよ」
霞はそう言うと、姿を消した。
「全く、飛びかかる等無謀な、単細胞め」
繻樂は戻って来た嵐に、呆れながら言うと、頭を軽く小突いた。
「すまぬ。つい止まらなくて」
嵐はしょぼんとした。
「それを止めて、主の命令を待つのが、仕えの務めでは?」
園蛇が呆れた様に言った。
「あ、でも、行先も分かりましたし」
皐が嵐をフォローする様に言った。
「それも嵐のお陰かどうか」
園蛇がやれやれと言う様に言った。
「仕方ないだろう!身体が動いてしまったんだから!」
嵐は噛みつく様に言った。
(園蛇様―)
皐のフォローは無駄になり、皐は心の中で泣いた。
「まあまあ、二人共。抑えて抑えて。今はここで言い争っている場合ではありません」
綜縺が二人を仲裁した。
園蛇と嵐はふんと鼻を鳴らし、お互いにそっぽを向いた。
綜縺がやれやれと思っていると、繻樂が何かに気付いた様に嵐にそっと近付いた。
耳と角の間の隙間に小さなミルスが挟まっていた。
(霞様のミルス…)
繻樂は驚きながらミルスを開いた。
ミルスには小さい文字で
“各部屋に役人達が囚われていて、もうすぐ妖怪達に殺されそう”
と、書かれていた。
ミルスは読み終えるか終えないないかのスピードで素早く消え去った。
それを読めたのは繻樂だけだった。
「繻樂様、何と書いてあったのですか?」
綜縺が不安そうに聞いた。
繻樂は皆に小声でさっきのミルスの内容を話した。
繻樂と霞の間には、小さいミルスを人に話す時は、小声でという決まりがあった。それだけ周りには知られてはいけない、重要な事だった。
綜縺は小声に疑問を感じたが、今は聞かなかった。役人達を助ける事が先決だと思ったからだ。
「各部屋々と言われても、この広い中どこにいるのか…」
颯月が困った様に言った。
「その前に何故、伽嵯茄木宮様がそんな事をお教えに?何かの罠では?」
園蛇が顎に手を当て、考え込む様に言った。
「確かに怪しいが、この情報が本物だとすれば、多くの人の命が危ない。今はこの情報に、従うしかないだろう」
繻樂が言った。
皆、賛同しきれない思いがあった。
あの霞に信じていいものかと。
「ここで悩んでいても仕方ありません。一度行ってみましょう。違ったら違ったです。」
綜縺が沈黙を破り言った。
「じゃあ、四組に別れ、一組二部屋回れ。多分そのぐらいだ」
繻樂がスラスラと言った。
「何故、分かるんですか?」
園蛇が聞いた。
「大体の収容人数、部屋の数ぐらい、役人の人数を覚えていれば大体分かる」
繻樂が答えた。
「繻樂様、四組とはどうゆう振り分けで?」
綜縺が聞いた。
「嵐と皐、園蛇と颯月、綜縺一人、我一人だ」
繻樂は振り分けを述べた。
「そんな!主を一人でなどっ」
嵐は抗議をした。
「我は大丈夫だ。皐を守ってやってくれ、これは命令だ」
繻樂は嵐の頭を撫でながら言った。
「………御意」
嵐は寂しそうに言った。
「本当に大丈夫なんですか?繻樂様お一人で」
綜縺が心配そうに聞いた。
「ああ、最近何故だか、力が少しずつ戻って来ているのだ」
繻樂は何かを実感するかの様に言った。
「それでも何かあったら…」
綜縺は心配したが、繻樂に遮られた。
「その時は、すぐに逃げる」
「約束ですよ」
「ああ」
繻樂は短く答えた。
その後、繻樂は皆に指示し、収容されているであろう部屋の場所を教え、最後には刀馬のいる場所に集合する事になり、各々散って行った。
「よろしくお願いします、嵐」
皐は嵐に近付き、言った。
「足手まといになるなよ」
嵐は厳しい言葉を投げかけた。
「はい」
「乗れ、その方が早い」
嵐は強めの口調で言った。
「はい」
皐は返事をしたものの、どう乗ればいいのか分からなかった。
必死に嵐に手を掛け、乗ろうと奮闘した。
その時、誰かが後ろから、身体を支えて押し上げてくれた。
「園蛇様!」
皐は嵐の背にようやく乗る事が出来、横を見ると園蛇がいた。
「気を付けるのですよ、皐。それと嵐、しっかりと皐を守ってください」
園蛇はそれぞれに言葉をかけた。
皐は笑顔で”はい”と答え、嵐はふいっと顔を背けた。
「行くぞ」
嵐はそうゆうと、乗り慣れない皐を背に、駆けて行った。
「我々も行きましょう。嵐に遅れを取らない様に」
綜縺が言い、皆それぞれ別れて行った。
綜縺と繻樂は少しの間、同じ道だったので、一緒に行った。
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