第25話  集合二

雅は双子に産まれた。

この国では、双子は忌み嫌われる存在だった。

雅の義父となったのは雨野駆(うのかける)。

駆は政府の役人の男から、借金を肩代わりしてもらう代わりに、雅を引き取る交渉をした。

駆はその時、双子であると知らされておらず、交渉成立後に双子の片割れであると知った。政府の役人の男が口を滑らせたのだ。

駆は捨てたり、殺したりしたかったが、すれば罪人になってしまう。そんな事は出来ず、妻と育てる事にした。周囲に双子の片割れとばれない様に。

しかし駆は酒癖が悪く、酔っては雅に暴力を振るい、虐待をした。罵声を浴びせ、殴る、蹴るを繰り返した。駆の妻も、雅の事を良く思っておらず、駆と同じ様に虐待をし、虐げていた。

そんなある日、駆は雅に口を滑らせ、双子の片割れで有る事、政府の役人の男の事、全てを喋ってしまった。

駆はそれから、何か吹っ切れたのか、その日から双子の片割れであるという事を、雅に対して口にするようになった。

次第に双子の片割れだと言う事が、村の人達にもばれていった。

雅は家で虐待を受け、外に出れば村人や子供達から石を投げられた。

颯月だけが差別せず、傍にいた。

雅とは二つ歳が下で離れているが、一緒に多くの時間を過ごした。

しかし、ある日、雅はある行動に出た。

雅は家にあった槍を使って、義理の両親を殺したのだ。

そして雅は颯月の呼び止めの声も聞かず、村から立ち去った。

歳にして雅が十歳、颯月が八歳の頃だった。

「我は大人になって、雅を探す旅に出たんです。雅の片割れの事は何も分かりません。雅が何故繻樂様の周りを狙うのかも…」

颯月は暗い顔をして言った。

「そうか、双子だったのか」

「繻樂様も嫌いますか?」

颯月は不安そうに問いかける。

「いや、我も双子だ。」

繻樂は首を振り、目を伏せて答えた。

「え、双子…」

颯月は驚きのあまり言葉を失った。呪いの女と広まってはいるが、双子だという情報までは無かった。

「もしかしたら、雅は我の片割れなのかもしれないな」

繻樂はぼそっと呟いた。

それを最後に場は静まり返り、二人は静かに歩を進めた。

しばらく歩いていると、市場街に着いた。さらに歩を進めていくと、何人かの人影が見えた。影は段々とはっきりしていき、園蛇達が姿を現した。

「主!」

嵐の声が聞こえた。

嵐が一番に気が付いたのだ。

嵐は繻樂の元に駆け寄った。

「嵐、無事だったか、良かった」

繻樂は嵐を撫でながら言い、少し微笑んだ。

(あ、笑った…)

綜縺は近付いていく中、繻樂の微笑む顔を見て思った。

無理に笑う繻樂ではなく、自然な笑顔の繻樂。

これを友人である翔稀馬に一番見せたかった。

綜縺はそう思った。

「主こそ!無事で良かった。」

嵐はとても嬉しそうに繻樂に顔をこすりつける。

「皆も無事だった様だな。我らが最後か。待たせたな」

繻樂は皆に向かって淡々と言った。先程の微笑みは無かった。

(儚い…)

綜縺は繻樂の笑顔が一瞬で消えてしまった事に、儚さというさみしさを覚えていた。


そして皆は、その場で各自あった出来事を話し、情報交換をした。

「謎が出ましたね」

園蛇が手を顎に付け、考え込みながら言った。

「はい、どうして各々行き着いた先で、妖術師に出くわしたのか。どうしてあの竜巻に伽嵯茄木宮様の気配があったのか」

綜縺が謎を示す様に呟いた。

その時、一つのミルスがみんなの前に飛んできた。

「!霞様のミルス!」

繻樂が驚いて言い、ミルスを受け取った。

皆はそのミルスの内容が気になり、繻樂の手元に注目した。

“政府内は二人の妖術師によって、占領された。

政府の建物にいた皆が人質となっている。

そして雅が、妖術師にそそのかされ、村々を襲って回っている。

こちらはまだ大丈夫なので、先に雅を止めて欲しい。”

ミルスにはそう書かれていた。

読み終えるとミルスは消えた。皆あまりの事の大きさに、動揺し沈黙した。

繻樂はごくりと唾を飲み込んだ。動揺を落ち着かせるためだ。

そして繻樂は切り出した。

「行こう。雅を探すぞ。今は霞様を信じるしかない」

「あの竜巻を起こしたのが伽嵯茄木宮様だったとしてもですか?もしかしたら、妖術師の仲間かも知れないんですよ?」

園蛇が疑いながら言った。

「ああ。確かにあの竜巻の気配は霞様の物だった。けれど今は、その謎は置いて置くべきじゃないか?我は村を助けるのが先だと思う」

繻樂は反論した。

「”雅”という女に執着してはいませんか?」

園蛇が、きつい口調と目つきで言った。

「否定はしない。だが、今政府に乗り込んで何になる?こんなにも情報が軽薄な中、何が出来る?それなら死人を増やさぬ様、村を救う事が先だとは思わないか?」

「…そうですね。でもどの村にいるかは分かりませんよ?それも情報軽薄とは言えませんか?」

園蛇が、繻樂の意見を認めるも、挑発する様に言った。

「言い合いはそこまでです。まずは村の被害を調査して、雅を探しましょう。繻樂様の仰った通り、村を救う事が先決だと思います。」

綜縺が二人の言い合いに割って入った。

「…分かりました。まずは村を助けましょう。でも、あまり雅に執着し過ぎて、我を忘れないで下さいね」

園蛇は繻樂に釘を刺した。

繻樂はその言葉に何も答えず、嵐の背に乗り進みだした。

皆は黙って繻樂の後を追った。

重い空気の中、出発して行った。


「ねぇ、霞~ちゃんと連絡してるの?」

政府の建物の中でミルスを使っている霞に、一人の妖術師が聞いた。

「大丈夫ですよ。ちゃんと送っています。八人集も再び集まることでしょう」

霞は世界に散らばった妖術師達にミルスを送りながら、答えた。そしてこの時、こっそり繻樂にもミルスを送っていた。

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