第19話 二対二 二

嵐は二人の妖術師相手に戦っていた。

二人の攻撃をかわし、線光を吐き反撃をした。

妖術師達の攻撃は息が合っており、厄介だった。

休むとなく次から次へと攻撃が繰り出される。

嵐は避け、線光を吐くぐらいの事しか出来なかった。

綜縺はそれを見兼ねて、矢に呪符を刺し、弓を引き、二人の妖術師に向けて放った。

すると、一本の矢が沢山の矢になって飛んでいった。

妖術師達は、それを避ける為、嵐から離れていった。

「無謀ですよ、嵐。妖術師二人相手に、一人で挑むなんて」

綜縺は歩きながら、嵐に近付き言った。

「ふん、来るのが遅かっただけだろう」

嵐はそっぽを向いて言った。

「あなた方は妖術師ですよね。どうしてここに?」

綜縺はそれを無視し、妖術師達に話し掛けた。

「お前等が我等を虐げるからだろ!」

短剣を持った妖術師が、そう言いながら綜縺に襲い掛かった。

綜縺はそれを軽やかに避ける。

「おい、伴次(ばんじ)!そっちは任せるぞ。我はこのユニコーンを倒す!」

剣を持った妖術師は、短剣の男を伴次と呼ぶと、指示を出した。

「望むところだ。来い!灰にしてやる。妖術師!」

嵐は身構えた。

「我は銀次(ぎんじ)だぁ!」

剣を持った妖術師は、名乗りながら嵐に剣を振り下ろす。

嵐はそれを角で受け止めた。

角と剣で激しくやり合う音が聞こえた。

暫く、そのやりとりが続いた後、互いに飛び退き、一時、間を開けた。

しかし、すかさず嵐が光線を吐く。

銀次はそれを避けた。

光線は砂漠に当たり、砂が巻き上がり、砂埃で辺りが見えなくなった。

「いでよ、魔法陣!我は神の使いなり。今我に仕えし砂を力に変えよ!」

嵐はその隙をついて、呪文を唱えた。

嵐の呪文の後、隣にゴーレムの様な姿をした砂男が現れた。

「やれ」

嵐の指示に、砂男は銀次に向かっていく。

「チッ!厄介なもの出しやがって、くそ馬が」

銀次は悪態をつきながら、砂男を斬った。

しかし、斬っても斬っても、砂の為、すぐに砂男は復活した。


「おい、おい。防戦一方じゃん。やっぱり弓って不利だなぁ」

余裕の笑みで伴次が言った。

綜縺は伴次の繰り出される攻撃に、避ける事しかしていなかった。

「それはどうでしょう?」

綜縺はそう言いながら、矢を手に持って伴次に突き刺した。

伴次はそれを飛び退いて避けた。

「危ねぇなぁ」

「こんな使い方も出来るのですよ」

綜縺は諭す様に言った。

「けど、近戦で役に立つのかよ!」

伴次は言いながら、向かって来る。

それを綜縺は短剣を取り出し、受け止めた。

「ほう、お前も短剣ねぇ。けど我は二刀流だぁ!」

伴次は勝ち誇った顔をして言い、もう一本短剣を取り出した。

そして、それを綜縺に向けてふるった。

キン!

鉄と鉄のぶつかり合う音がした。

綜縺の短剣は、伴次の短剣で制されている。

なのに、金属片の音がした。

「何!?」

伴次はその光景を見て驚いた。

綜縺が持っていた木の矢が、いつの間にか鉄の矢に変わっていたのだ。

綜縺はもう一本の短剣が向かってくる瞬間、鉄の矢と取り替えていたのだ。

「おいおい、鉄の矢なんて聞いたことねぇぞ」

伴次は少し焦っていた。

「はい、これは我が作った特注品、知らなくて当然です。一点物ですから」

綜縺はニコッと笑って答えた。

「くそっ!それがどうした!?本職の弓が使えなきゃわけないな!」

伴次は、一度短剣を自分の元へ戻し、再度攻撃する。

「我は弓を使いたくて使っているわけではありませんよ?」

綜縺はそれを鉄の矢で受け止め、短剣をふるいながら言う。

その立ち振る舞いは余裕さえ見えた。

「何だと?じゃあ何が得意なんだよ!?」

キン、カン、と金属片の音を立てながら、伴次が聞いた。

「さぁ?なんでしょう?簡単に敵に手の内を明かす程、馬鹿ではありません故」

綜縺はあざとい程の笑みを溢して言った。

「ムカつくなぁ!」

伴次はそんな態度の綜縺に、怒りを露わにした。

「どうぞ、遠慮なくムカついて下さい。我は気にしませんので」

綜縺は、またニコッと笑みを浮かべた。

「あームカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく!!!!」

それを見て伴次は、激しく激怒した。

そして、二刀流の短剣を乱雑に振り回した。

綜縺はそれを、鉄の矢と短剣を使って受け止める。

伴次は、攻撃が当たらない事にも腹を立てた。

「ムカつく!」

伴次は短剣を縦に振り下ろした。

綜縺はそれを鉄の矢で軽くいなす。

そして、素早く呪符を取り出した。

「医術六式(ろくしき)、切開(せっかい)!」

綜縺はそう言うと、呪符を投げ付けた。

しかし、伴次は軽々と避けた。

「おっと危ない。チャンスを逃したな」

伴次は嬉しそうに言った。

「どうでしょう?」

綜縺は飄々とした態度で言った。

「お前の態度、嫌いだ」

伴次はムスッとした。

「ええ、どうぞ。沢山嫌って下さい」

綜縺は、これでもかと言う程の満面の笑みで答えた。

「ムカつく…」

伴次は睨みながら呟いた。

綜縺はそんな伴次を無視し、攻撃を始めた。

矢に呪符を刺し、弓を引き絞った。

「矢よ、燃えろ」

低い声でそう言い、矢を放った。

すると、矢の全体が燃えながら、伴次に向かっていった。

伴次は余裕で避けた。

「矢よ、風になれ」

綜縺は再び同じことをし、冷静に言う。

矢は全体が風となり、見えなくなった。

至近距離まで近付くと見えるようになった。

しかし、 気付くのが一歩でも遅れれば、刺さる攻撃だった。

それを伴次は、間一髪心臓への矢を免れた。

しかし他の矢がかすめていく。

「チッ!嫌いじゃなかったのかよ」

伴次は傷口を抑えながら、叫んだ。

「嫌いとは言っていません。好まないと言うだけです」

綜縺はニコッと微笑む。

もはや悪魔の笑みとも捉えられる笑みだった。

「それが嫌いって意味だろ!」

伴次は苛立ちを露わにしながら、綜縺に飛び掛った。

綜縺は鉄の矢に呪符を刺した。

そのまま伴次の攻撃を矢で受け止め、短剣で攻撃をした。

伴次も攻撃を受け止める。

互いに再度攻撃を仕掛ける。

金属片の音がする中、綜縺は少し何かを伺っているようだった。

そして綜縺は「医術六式、切開!」と叫び、鉄の矢を一本の刀の様にふるった。

スパンッ!

伴次の持っていた一本の短剣は、真っ二つに折れた。

「バカな!たかが矢でそんなことが!」

伴次は慌てた。

「矢ではありません。あらかじめセットしておいた呪符ですよ」

また綜縺はニコッと微笑む。

「くそっ!ムカつく」

伴次は、その態度を見て腹を立てた。

「さあ、これで短剣同士での戦いが出来ますね」

綜縺は鉄の矢をしまい、片手に短剣を構えた。

「本当だな」

伴次も折れた短剣を捨て、片手にもう一本の短剣を構えた。


「伴次!」

短剣を一本折られた瞬間を見た銀次が叫んだ。

「よそ見する暇あんのか!」

嵐は容赦なく光線を吐く。

銀次はそれを避けたが、砂男に捕まった。

必死に抜け出そうとするが、抜け出す事は出来なかった。

「これで終わりだぁー!」

嵐が、角を向けて向かっていく。

銀次が口角を上げてニィッと笑った。先程の抜け出そうとする姿が、演技だったかの様だった。

銀次は呪符を取り出した。

「呪符、水」

銀次はそう言うと、持っていた呪符を砂男の手に貼る。

砂男の手は泥になって溶けていった。

そして、手は復活することが無かった。

銀次は軽々と抜け出した。

「くそっ!」

嵐は唾を吐き捨てた。

「砂の弱点は水。さあ、雨よ降れ!呪符、水」

銀次は五枚の呪符を一気に使った。

砂男に水が雨の様に降りかかり、消滅した。

「さあ、どうする?ユニコーンよ」

銀次は優勢に立ったと言わんばかりの態度を取った。

「そこだけ濡れても、何も痛くないな」

嵐は余裕で言った。

そう、ここは砂漠。砂など腐る程ある。

「いでよ、魔法陣!我は神の使いなり。今我に仕えし砂を力に変えよ!」

嵐は再び呪文を唱え始めた。

「また同じか。芸が無いな」

銀次はふんっと鼻を鳴らした。

「いでし力、我に力を与えよ。帰られし力、現れよ。高貴なるユニコーン!」

嵐は唱える中、段々と険しい顔になりながら唱えた。

そして、唱え終えると、無数の砂ユニコーンが現れた。

「なんだと!?」

銀次は驚き、声を上げた。

高貴なるユニコーンの具現化は難しい。それに加え、複数体出現させるのは、更なる力と精神力を要するものだった。

「我をなめるな」

嵐は銀次を睨んだ。

「ただのユニコーンじゃないことは分かったよ。でもまた水をかければお終いさ」

銀次は呪符を五枚取り出した。

「それが出来ればな!」

嵐は砂ユニコーン達を一斉に突進させた。

しかし、その攻撃は避けられ、先と同じ様に水をかけられた。

あっという間に砂ユニコーン達は消えていった。

かろうじて三体だけ、生き残った。

「高貴なるユニコーンよ、今姿を変え、剛鉄となれ!」

嵐は残った砂ユニコーンに命令した。

「剛鉄だと!?」

銀次は驚いた。

砂を剛鉄へ変える物質変化など聞いたことが無い。物質変化はとても難しい技なのだ。

ましてや一番強度の強い剛鉄に変えるなど、至難の業だ。

砂ユニコーンの体全部が剛鉄になり、三体が合体して大きな一体になった。角の長さも長くなっていた。

嵐の命令で、剛鉄のユニコーンは銀次に突進していった。

銀次は剣で角を止める。

一撃が重く、止めるので精一杯だった。

いなす事も出来ず、動く事も出来ない。

膠着状態に陥った。

しかし暫くして、ピキッと剣が音を立てた。

その音を合図にピシッと剣にヒビが入り、パキンと音を立てて折れた。

折れた瞬間、剛鉄のユニコーンの角がグサッと銀次の心臓を貫く。

銀次は言葉なく血を吐き、死んだ。

役目を終えた剛鉄のユニコーンは消えた。

剛鉄のユニコーンが消えると、銀次の身体から角も消えた。

支えが無くなった銀次の遺体は、砂の上に倒れた。

赤い血が砂漠の中にドクドクと染みていった。


綜縺と伴次は短剣同士で、互いに譲り合う事なく戦っていた。

その途中で、綜縺が足技を仕掛けた。

伴次は咄嗟に後ろに飛び退いて避けた。

「卑怯じゃねぇか」

「卑怯も何も、ダメと言われていませんからね」

綜縺は飄々として言った。

「チッ!何でも有りってか」

伴次は嫌そうに舌打ちをした。

「そうです。さぁ、そろそろもう一本の短剣も、無くしましょう」

綜縺はそう言うと、短剣をしまった。

そして、呪符を五枚取り出す。

「紙切れで勝てるかよ!」

伴次は綜縺に勢いよく向かっていった。

「紙切れだと思っているから、負けるのですよ。医術七式(ななしき)、切除」

綜縺は五枚の呪符を投げ付け、伴次の短剣に貼り付けた。

すると刃が五ヶ所欠けた。刃先までもがなくなっていた。

「これでその短剣はもう、使い物になりませんね」

綜縺はクスリと笑った。

「くそっ!我達兄弟は強いんだー!」

伴次は綜縺に殴り掛った。

綜縺は軽々と避けて、反撃をする。

「教えましょう。我の得意とすること。それは体術です。分かりますか?今この状況、我の有利という事ですよ」

綜縺は得意と言うだけあって、伴次の攻撃を軽々と避け、的確に伴次に攻撃を当てていく。

「我だって体術ぐらい出来るわー!」

伴次は叫んび、綜縺に立ち向かった。

冷静さを失っていた。

その後も、伴次の攻撃は当たる事無く、綜縺からの攻撃を喰らうばかりだった。

綜縺は短剣を取り出し、伴次の身体にすばやく数ヶ所、斬り付けた。

その傷は深く、ボタボタと血が垂れ、砂に血が染みっていった。

「おい、刃物使うなんて聞いてないぞ!」

伴次は、痛みに顔をしかめながら言った。

「それは言っていませんものね。それに、使わないとは一言も言っていません」

綜縺はまたニコッと笑顔を見せる。

「卑怯だぞ」

伴次は叫んだ。

「いくらでもどうぞ。生死を掛けた戦いに、卑怯も何もありませんから」

綜縺は先程までの笑顔とは違い、怖い顔をし、低い声で言った。

「チッ!ゲスなやろうだぜ」

伴次は悪態を付き、痛みを堪えながら、綜縺に向かっていく。

しかし、短剣が邪魔をし、中々近付けなかった。

そして綜縺は、突然、十分過ぎる間合いを開けた。

「?」

伴次が不思議に思っていると、綜縺が手をクイクイと動かし、目で挑発して来た。

「!」

伴次はその挑発に、頭に血が上った。

そして綜縺に向かって、走っていった。

綜縺は弓を引き、放った。

伴次は簡単に避けた。

そして伴次は飛び上がり、上から綜縺を襲った。

綜縺は冷静に上を向き、もう一度、次は鉄の矢を引き絞る。

「あなたは強い」

綜縺は狙いを定めながら呟いた。

「ですが、我に及ばなかった敗因は、仲間と連携しなかったことです」

「何?…!」

綜縺の言葉に疑問を抱くと、空中で身体が動かなくなった。

伴次は砂の鷹に肩を捕まれ、空中で動けなくなったのだ。

その砂の鷹は、嵐が出してくれていたものだった。

綜縺は容赦なく矢を放つ。

鉄の矢が伴次の心臓を一突きする。

それと同時に、砂の鷹も消えた。

伴次は頭から落ちていった。

落ちた衝撃で矢はより深く刺さった。

「ありがとうございます、嵐。助かりました」

綜縺は伴次を仰向けにすると、胸に足を乗せ、心臓の矢を抜きながら言う。

嵐は倒れていた。力を使い過ぎたのだ。

「ああ」

嵐は短く答えた。苦しそうだった。

「これは診るまでもなく、休憩、ですね、嵐」

綜縺は嵐に近付いていき、嵐を診ながら言った。

「ああ、だな」

嵐は金色の鬣を使い、自身を癒していた。


「すごい。すごいな、お主等!素晴らしい活躍だったぞ!どうだ、我のボディーガードをやらないか?」

遠くから見ていたキャバックが、感嘆の声を上げ、提案した。

「すみません、それは出来ません。我等はイルサネ国に戻らねばなりません」

綜縺は丁寧に答えた。

「何故だ?妖術師とやらは倒したのだろう?いいではないか」

キャバックがキョトンとして言った。

「まだ我が国にいるのです」

「それは他の者に任せればいいだろう」

「それは出来ません。愛する我が国の事。放っておく事は出来ません」

綜縺は少し強い口調で言った。

「いい。強い眼差しだな。分かった。惜しいけど諦めるよ」

キャバックは綜縺の強い眼差しを見て、観念した。

「そして、我が責任を持ってイルサネ国まで送ろう」

「!ありがとうございます」

綜縺は深々と頭を下げた。

「して、あのユニコーンはどうした?」

キャバックはずっと倒れ込んだままの嵐を見て言った。

「戦いで力を使い過ぎたんです。しばらく休んでいれば良くなります」

綜縺が簡潔に答えた。

「そうか。もうすぐ日も暮れる。まずは我が宮殿へ参られよ」

「はい」

綜縺は返事をすると、嵐に近付いて行った。

「さあ、嵐。少し歩く位の力は取り戻したでしょう?行きますよ」

「お前鬼だな」

嵐は弱々しい目で睨み付けた。

「鬼で結構。行きますよ」

「ああ」

嵐は必死に身体を起こし、立ち上がった。


暫く砂漠を歩くと街に着いた。

宮殿は街の奥にある。

宮殿に向かう途中、何度も「珍妙な動物だ」と、言われた。嵐は反論したかったが、そんな元気は無かった。今にも倒れそうな程辛かった。

無理も無かった。あれだけの技を繰り出し、平然としていられる方が可笑しい。あの技は、体力と精神力を沢山使う技なのだ。

「無茶しましたね」

辛そうに歩く嵐に綜縺は言った。

「うるさい、ああでもしなければ勝てなかった。奴等、強かった」

嵐は険しい顔で答えた。

「ええ、強かったですね。まだこんなにも強い妖術師が残っていたとは…」

「これが最後だといいがな」

嵐は最後の残党で有る事を願った。

「ええ、そうですね」

話ながら進んでいると、街の奥にある宮殿に着いた。

宮殿に着くと、嵐はラクダ小屋へ案内された。

嵐はそこでラクダと共に休んだ。

綜縺は宮殿内で一晩休むことになった。


翌日、キャバックの従者が、ラクダ小屋で出発の準備をしていた。

「ここからイルサネ国にはどうやって行くのですか?」

綜縺が、ラクダ小屋でその準備を見ているキャバックに聞いた。

「ここから南に行ったところに、サルハという町がある。そこには我専用の船がある。それに乗って行けば、イルサネ国には戻れるだろう」

「ありがとうございます。キャバック王子」

「なに、気にするな。お主等は街を守ってくれた様なものだからな」

キャバックは綜縺に笑顔を見せて言った。

「さ、準備が出来たぞ」

キャバックはそう言うと、ラクダに乗った。

綜縺もラクダに乗らなくてはならないらしい。

綜縺は緊張しながら、従者に手伝ってもらい、初めてのラクダに乗った。

嵐は一日ゆっくりしたおかげで、完全回復をしていた。

綜縺、キャバックはラクダに乗り、嵐は徒歩で、サルハに向かった。


ラクダの背に揺られ、ゆっくりと進む。

休憩を挟みつつ、綜縺達は昼頃にサルハに着いた。

サルハに着くと、綜縺、キャバックはラクダから降りた。

そして、街の奥にある船着場まで歩いて行った。

その道中、またも嵐は珍妙だと言われた。

嵐は「もう、いい」と呆れて諦めていた。


街の奥の船着き場に着くと、大きな船が一艘止まっている。

「これが我の船だ。これに乗って行くといい」

キャバックが、その大きな船を指差して言った。

「ありがとうございます」

綜縺は深々と頭を下げて礼を言った。

嵐は何も言わず、そそくさと船に乗り込んでいった。

それに続き、綜縺も船に乗り込んだ。

「愛する国を、守れるといいな」

キャバックは綜縺の背に向かって言った。

「はい、守ってみせます」

綜縺は振り返り、キャバックの目を見つめ答えた。

「いい眼だ。頑張れよ」

キャバックのその言葉を最後に、船は動き出した。


「これでなんとか帰れますね、嵐」

甲板に出ている嵐に、後ろから声を掛けた。

海風が鬣や髪を揺らす。

「ああ、主達は大丈夫だろうか」

嵐は海を眺め、呟いた。

「それは何とも。でも、信じましょう。国に戻ったら皆さんがいる事を」

綜縺は嵐の隣に立ち、言った。

「そうだな(繻樂、無事でいてくれ)」

嵐は心の中で祈った。

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