第16話 砂姫 一

皐は身動きの取れない空中にいた。

どこに向かって飛んでいるのかも分からなかった。

しかし、気が付くと急降下している。

このままだと地面に叩きつけられてしまう。

叩きつけられたら即死だ。

皐はなんとか呪符を取り出した。

「薬術ニ式、守備!」

地面に落ちる寸前に結界が働き、直撃は免れた。

しかし、落ちる勢いと結界の反動で跳ね上がり、地面に叩きつけられ、石畳の床を転がった。

「いっ、たたた…」

皐はボロボロになりながらも、立ち上がった。

着物を軽く着付け直し、埃や土を払った。

「ここは…?」

そして、辺りを見回して呟いた。

そこには、見た事もない景色が広がっていた。

大きな建物が沢山並び、最先端機器が使用されていた。

皐は近くにあった案内板を見た。

「えっ…と、アルーンバレツ…って!アフタリア王国!?なんでそんな発展国に!?アルーンバレツなんて首都じゃない!」

皐はあまりの事にパニックに陥った。

しばらくワタワタした後、皐はやっと落ち着きを取り戻し、ベンチに腰掛けた。

「はぁ、習った事はあったけど、実際本当に来ることになるなんて思わなかったな…」

皐は、学校の勉強でアフタリア王国の事を学んでいた。


アフタリア王国

王族が国を治める国。

先進発展国で、様々な発明をしている。

車や蒸気機関車を発明した国だ。

服装も優雅なドレスやタキシード、スーツに靴を履いている。

そんなアフタリア王国の首都がアルーンバレツだった。

アルーンバレツには、王宮があり一際栄えた街だった。


「これからどうしよ…」

皐はアフタリア王国と自分の国の差にため息を吐く。

皐はボロボロになった着物に藁草履だ。

「ちゃんとした草履でも履いて来るんだった…」

ベンチで足をぶらぶらさせながら、俯いて自分の藁草履を見ながら呟いた。

その時、頭上から声が聞こえた。

「おい、そこの者。ここで何をしている?」

「え?」

顔を上げると、鉄の鎧を着て槍を持った男の人が二人いた。この国の兵士だ。

二人の男は、皐を上から下まで舐め廻し、強い疑いの目を向けた。

「入国書を見せろ」

一人の男が唐突に言った。

「えっ…」

皐は青ざめた。一瞬で事の事態を理解したのだ。

皐は今、不法入国者として疑われていた。

しかし、弁明する余地がなかった。

言わば、その通りだからだ。

竜巻に呑まれ、飛んできたなどという話を誰が信じるだろうか。


皐は弁明出来ず、二人の兵士に連行された。

行き着いた先は、王宮だった。

皐はロープで体を縛られ、手も後ろで拘束された。

(はぁ、こんなことになっちゃって、どうしよう。このまま牢屋とかないよね?)

皐は何度目かのため息を吐く。ここに来てから、ため息しか吐いていない様に感じた。

皐は謁見の間に通された。

「陛下!不法入国者を捕らえました!」

陛下と呼ばれたその人は、こげ茶色の髪に、ガッチリとした体型で、髭を長く伸ばしていた。

「不法入国か。理由は?」

陛下は顔を険しくした。

「はっ、まだ話しません」

「おぬし、名はなんという?」

陛下は皐に尋ねた。

「えっ?あっ、な、薙矢皐です」

皐は突然話しかけられ、すぐには対応出来なかった。

「そうか、私はアルーン21世だ。で、薙矢よ、何故不法入国を?その姿からして密偵では無いな。難民か?」

アルーン21世は矢継ぎ早に質問した。

(なんて答えよう…)

皐は戸惑った。下手な事を言って、外交問題に発展させたくはなかった。

「おい、早く答えろ!」

兵士の男が急かした。

「よい、何か言えない事情でもあるのか?」

アルーン21世が制止し、優しく聞いて来た。

「あの、我に外交をどうこうするつもりは無くてですね…」

皐はどう答えていいか分からず、しどろもどろになる。

「質問を変えよう。どこの国から来た?」

「イルサネ国です」

皐は素直に答えた。

「イルサネ国か。やはり難民では無いか?」

世界でイルサネ国は、少し発展の遅れた国という認識だった。

「違いますっ!私は難民なんかじゃ」

皐は身を乗り出して答えた。

「では密偵か?」

「それも違います」

「その2つしかないだろう。違うのなら早く理由を言いなさい」

アルーン21世は、ため息をついた。

「…来たんです」

皐は俯き、か細く答えた。

「ん?」

その言葉を聞き取れず、アルーン21世は聞き返した。

「信じてもらえないと思いますが、イルネサ国で竜巻に呑まれ、ここまで飛ばされて来たんです」

皐は意を決して、アルーン21世をしっかり見つめて答えた。

「竜巻に飛ばされて来た…信じ難いな」

アルーン21世は、険しい顔をした。

「ですよね、我もまだ信じられていません」

皐は俯いた。

「竜巻に呑まれたのは、薙矢だけか?」

「いえ、我の他にも五人ほど」

「そうか…」

アルーン21世は、肘掛けに肘をついて、困った様にため息を吐きながら言った。

「陛下!そんな話を信じるんですか!?」

槍を持った兵士が叫んだ。

「しかしなぁ、薙矢が嘘をついている様に私には見えんのだよ」

アルーン21世は困った様に言った。

「陛下!しっかりして下さい!こう見えて実は密偵かもしれないんですよ!現に短剣まで所持していたんですよ!」

兵士は大声を上げた。皐の事がどうしても信じられないらしい。

皐は護身用に全長30㎝の短剣を一本、所持していた。

今は兵士に押収されている。

「しかしなぁ、イルサネ国では武器の所持は普通なのだろう?薙矢」

アフタリア王国は兵士以外、武器を所持することが禁じられていた。

「あ、はい。殆どの人が何かしら持ち歩いています」

「なんと物騒な国だ」

皐の言葉に、兵士は皐の国を非難した。

「こら、失礼だぞ」

その言葉に、アルーン21世が兵士に一喝した。

「あ、す、すみません」

兵士は萎縮し、すぐに謝った。

「いえ、お気になさらず(この人、槍を持ってる。役人では最下位の筈なのに、王様にこんな口が聞けるなんて、すごい。なんで、そんなことが出来るの?)」

皐は笑顔で答えたが、心の中で疑問が生まれていた。

その時、ドタバタと慌ただしい音が聞こえた。

「陛下!大変です!外に変な怪物が現れました!」

入って来た兵士は、酷く慌てた様子で言った。

「怪物!?様子を見に行く」

アルーン21世は怪訝な顔を浮かべながら、立ち上がった。

「はっ!」

兵士達は返事をし、外に向かう。

「あのっ、!我も…」

皐は、外へ行こうとするアルーン21世を呼び止めた。

妖術師の気配を感じていたのだ。

「何か知っていそうだな、来るといい」

アルーン21世は皐の真剣な眼差しを見て言った。


外に出ると、そこには妖怪で溢れていて、既に兵士達が戦っていた。

「なんだこれは!急いで掃討せよ!全勢力を費やせ!」

アルーン21世はすぐに指示を出した。

「はっ!」

兵士はすぐにその場を離れていった。

「やっぱり…」

皐はこの現状を見て呟き、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「薙矢よ、何を知っている?」

「………」

皐は答えようとしなかった。

妖術師のせいで、怪我人や死人が出た時、イルサネ国の問題とされ、両国間で、いざこざが起こる事を避けたかった。

「答えよ」

アルーン21世は口調をきつくした。

「これは我が国、イルサネ国の問題です」

「答えられぬか」

「我を戦わせて下さい」

皐は懇願した。

「何?」

アルーン21世は驚いた。

「これを外交問題に発展させたくはありません」

皐は自分で処理しようとしていた。

「薙矢の回答と活躍によっては、外交問題に発展させないと誓おう。話してはくれぬか?あれがなんなのか」

アルーン21世は皐に促した。

「…あれは、妖怪です。そして、それを操る人間がいます。我が国では”妖術師”と呼んでいます。以前、掃討命令が出て掃討したのですが、残党がいたようで、今回のこれもその残党の仕業かと(でも何でここに?残党って何人いるの?)」

皐は疑問に思いながらも答えた。

「なるほど、妖術師とな。聞いたことはあるな、絶滅した種族だと」

「はい」

「よかろう。我が国、アフタリアを救ってくれるか?」

「御意」

皐は強い眼差しで答えた。

アルーン21世が皐の縄を剣で切った。そして、短剣も返してくれた。

皐は走って妖怪の群れに向かって行った。

アルーン21世もその姿を見届け、妖怪討伐に行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る