第80話 起源
「なにから話そうかしら…そうね…スライムのことを話そうかしら?」
タダならぬ空気がナミやコトネの存在を排除していた。
綺璃子は静かに話し始めた。
「スライムはね、神が造りだした最初の生命…ゆえに第一のアダムと呼ばれるの」
地球に原始的な生命が生まれ始めた頃、スライムは地球に堕とされた。
「地球外生命体?」
「さぁね…断言できるだけの確証はないわ、ただ…何から産まれたのか…それが解らないだけ」
スライムは、すでに在ったのかもしれないし、何かから産まれたのかもしれない、そういう可能性の中で地球外生命体という可能性は否定できないのだと綺璃子は言う。
第一のアダムとは、我々が想像している神とは別の神が造りだして別のエデンから追放された生命…我々の神はこの地に第二のアダムを誕生させた。
処女堕胎された稀有な生命体「キリスト」
「在り得ない…無性生殖だっての…か…」
「そう…在り得ないの、でも出来るのよ、第一のアダムを使えば」
キリストはマリアというスライムから産まれた。
つまり『ユキ』と同じリヴァイアタンだった。
「私はね、同じ条件下で幾度も試したわ…でも、なぜかオモカゲは女しか産まないの…なぜかしらね、キリストは男だったのに…最初の素体ユキ以外の個体は、すぐにただのスライムに戻っていく…ユキだって時間の問題だった…」
綺璃子は回収した「アダム」がいた南極に「ユキ」を連れていった。
そこで、キリストの遺骸を捜索し、発見した。
「ユキに与えたの…ユキの自我が芽生えた…完全なリヴァイアタンとして」
「神話通りだな…雄のリヴァイアタンは雌に食われる…」
「そうね…でも事実よ」
「そうか…アダムには知能が無かった…」
知性はユキに宿った。
「だからね、アナタが手を出さなくてもリヴァイアタンとベヒモスは、ひとつになるために食いあうのよ」
「残念だったな…双方共倒れだ」
「そう…かしら?」
「どういうことだ?」
「最強の生物リヴァイアタンは不死なのよ」
「冗談だろ?」
綺璃子はアダムとユキを手中にして思った。
「私も創造してみたくなったのよ…戻りたいと思わない? 追放されたエデンに」
「エデンだと…」
………
綺璃子は再生しかけていた自分の左腕を右手で千切って桜の足元にポイッと投げた。
桜が視線を落とすと『No28』の刻印が見えた。
「私はね…デザイナーズベビー…最初の世代のね」
此処で産まれた、最初の人造の化け物よ…綺璃子は笑った。
「そうかい…俺は、その人造の化け物から産まれた、人造のアダムか」
「いえ…アダム・カドモン、神人類よ…アナタは…影親、私の創造した子」
系統樹に属さない生命と系統樹から外れた生命…
「神とは…なんだ?」
桜が綺璃子に尋ねた。
「神とは…好奇心よ、全ての知性の衝動と反動…想像力の源…それは好奇心、全ては、ソコから始まるのよ…そして、ソレに殺される」
綺璃子の目から涙が零れた。
「好奇心がヒトを産んだ…」
桜が呟く。
「戻りたいのよ…エデンに…」
綺璃子が残った右手で顔を覆う。
「なんか可哀想…」
ナミが綺璃子を見て呟いた。
………
神は土から造った現身の鼻から命を吹き込んで男を造った。
男から肋骨からイブを造り、知恵を得るとエデンから追放したのだ。
「これはね…人が産まれる過程の話よ…」
母の子宮で母の肉から身体を造り、命を貰う、男から女へ変化し、あるいは男のまま、子宮から追い出されるの…母の力でね。
神とは母…エデンとは子宮。
人は母の子宮に戻りたがるのよ…2度と戻れぬ安息の地エデンへ…。
「自分で気づいたの…神になることとは、母になること…そしてエデンには戻れないと、気づいたときには…もう後戻りできない袋小路だったわ…」
「だから影親…私を殺して…」
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