終章
第71話 飼逝
「貴様らが持ち込んだのか…」
桜が冷めた紅茶をグイッと飲み干した。
少し苦い紅茶が桜を冷静にさせた。
「バラ撒く気はなかったんだ、あの時は…」
持ち込まれた『スライム』は大した利益はもたらさなかった。
ただ、その特性は興味深いものがあったがね。
なにより…『アダム』の存在が…。
全てが謎だった…今も、何も解らない。
『ガクト』は『スライム』のいや…『アダム』の研究機関として独立した。
綺璃子が、とある教授の助手として配属されたのは、その少し後のことだった。
『アダム』に『知恵の実』を与えてみたい、そんな興味の実現のために、『ガクト』は不老不死を詠いだした。
『スライム』は無限にコピーを繰り返すボディ、そのボディに意識を埋め込むことができれば…。
人格の転移は理論上可能だったのだ。
「事実『アダム』には自我がある」
岬は桜から視線を外した、目を細め何かを思い出す様に遠い目をしてフッと笑った。
「この奥か?」
桜は岬を見据えたまま、自身の後ろを親指で指した。
「慌てなくても、会わせるさ」
「で? その『アダム』は俺に何か話したいことでもあるのか?」
桜は岬を、からかうように笑った。
「フッ…そうだな…そうなればいいな…『アダム』はパーツ毎に解体、保管されている」
「解体?」
桜の脳裏に高木の姿が過った。
「勘がいいな…」
岬は悟ったように言葉を続けた。
「左腕は高木に移植した」
『アダム』はガクトに運び込まれたまま、すべてのコンタクトに反応を示さなかった。
だが…身体組織は完全に人間のソレであった。
髪の毛から爪まで完全にヒトをコピーしていたのだ。
そして、当然のように内臓も…脳も…。
検査は可能だった、脳波はある。
つまり反応を調べられる。
ゆえに自我を確認できたのだ。
「ドクター綺璃子はね、『アダム』をさらにコピーしようとしたんだ」
そのコピーから情報を引き出そうとした。
だが…他のスライムは『アダム』をコピーできなかった。
「彼女が次に試したのが…『アダム』の遺伝子情報を持った個体を産み出すこと…」
綺璃子は、まず『アダム』の身体を頭部、身体、手足、6つに解体した。
そして…その身体の一部から自らの分身ともいえる、『オモカゲ』を誕生させた。
「そう…神話のイヴのようにね」
「アダムの肋骨からイヴは創られたんだったな…」
「クククク、まぁドクター綺璃子が神話を、なぞるとは思わなかったがね」
そして…『オモカゲ』にサンプルとして採取させておいた精子を受精させたのだ。
「『ユキ』は、そうやって産まれた」
桜は動揺を抑えるように深く息を吸い込み…肺を空にするかのように大きく息を吐きだした。
「見たまえ…『オモカゲ』は体内で『ユキ』を身籠り、排出したのだよ、その抜け殻が『オモカゲ』だ」
桜は『オモカゲ』を見ることができなかった。
「『オモカゲ』は『ユキ』を排出した際に、その身体を受け渡したようだったよ、形だけのスライムになってしまった」
『ユキ』は『アダム』のボディと『綺璃子』の姿を引き継いだ…だけだった。
もう『アダム』の身体は存在しない。
『ユキ』は、ただの胎児、受精は不可能だったんだ。
成長を待つしかない。
仮に『ユキ』に『アダム』の精子を受精させたとしても、それは『ユキ』の複製品に過ぎないかもしれない、そう思った綺璃子は、もうひとつのパターンを試みた。
「彼女は自らの身体に『アダム』の精子を受精させたのだ」
桜の顔から血の気が引いて行く、気分が悪くなる。
「悟ったかね…桜くん…キミだよ」
岬が語気を強める。
「………」
「キミが産まれたんだ…この場所でね」
「オェッ…」
思わず吐き気が込み上げる。
「おかえり…桜 影親」
岬が立ち上がり大袈裟に両手を広げ、ニタリと笑った。
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