第54話 心象
「桜さん、手紙が届いてます」
「ん…」
部下が桜に手紙を手渡す。
「お手紙、誰から?」
ナミがオセロをガシャッと崩す。
桜とオセロを始めたのだが、コレが思うように勝てない、このゲームも早々に4隅を取られていたのだ。
「さぁな…俺に手紙ね~」
「珍しいよね、今時、手紙とか」
「郵便局もないのにな…」
「フロントに預けていったようです」
「ふ~ん」
桜は封筒を指で摘まんでヒラヒラと振ってみる。
(カミソリ…とか…なわけないか…)
「読んでみて!!」
ナミが、手紙に興味を示す。
「俺、宛てだぞ」
「手紙、珍しい!! 懐かしい!!」
ナミが桜の手からヒョイッと手紙を取った。
「あっ、おい…」
ビリッ…
無造作に封筒を破り開けるナミ
「他人宛ての手紙だぞ…もう少し気を使えよ…」
「あっ…えっ? あ~……見なきゃよかったよ…」
「せめて読めよ…」
桜がナミから手紙を取り上げる。
少し破れた手紙には
『拝啓 桜 影親 様 今夜24時、お迎えにあがります。 つきましては、軽装にて御一人でお待ちいただけますようお願い申し上げます』
「なるほど…」
「桜さん!!」
「あ~落ち着け、別にお前が呼び出されたわけじゃないんだ」
「はぁ?」
「心配いらない…」
ナミの前では、少し表情や言葉が柔らぐ桜ではあるが、最後の言葉『心配いらない』と言った後の目は、いつもの桜だった。
スッと視線が遠くに傾くような、どこか焦点が合わない目。
だが、焦点を自分に向けられ見据えられると、寒気が走る。
ナミの前で見せる桜の表情とのギャップが大きい分、普段の箔は増したような気もする。
「ナミ…また来るよ」
「うん、あのさ…なんかさ、オセロじゃないのが欲しい」
「ん…なんか…考えとくよ」
桜はナミの頭をポンッと叩いて病室を出た。
スッと桜の顔から笑みが消える。
「おい…この手紙は誰が預かった?」
「フロントで見張りをしている連中ですが」
「どんなヤツが持ってきたか聞いたか?」
「スーツの男…としか…」
「そうか…」
「桜さん、とりあえず人数は集めておきますので、後で指示をください」
「指示…そうだな…ナミが気にいる遊び道具を探しておけ」
「はっ?」
「頼んだぞ…数日空けることになりそうだ…」
「桜さん?」
「誰も付いてくるな…俺、独りでいく…ボスには明朝、伝えておいてくれ」
「…はい…ですが…いいのですか?」
「コレは…おそらく俺、個人の問題だ…ボスはもちろん、お前等の手を煩わせるつもりはない」
「桜さん、せめて尾行くらいは」
「ダメだ!!」
「罠ですよ!!」
「だとしてもだ…いや、だからこそ数多く人を巻きこめない」
桜は、そのままオフィスから自室へ戻った。
「……高木…か…」
薄々、感じていた。
いずれ近いうちに会いに来るだろうと…
あの時、あの場に高木がいた…見間違えではないのだ。
(アイツは笑った…笑っていた…)
俺を見て…
ヤツが俺を呼び出したのか?
あるいは、その後ろにいる誰かに利用されているのか…
シトシトと降る雨を窓から眺める。
高層階ゆえ、窓は開かない。
ガラスをツツッと指で自分の喉元を横一文字に切り裂く様に引く。
「俺の首を獲りに来たか…」
窓に映る自分の顔。
(桜…桜 影親…なぜ笑う?)
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