第53話 強襲
「相変わらずだ…この街は…」
高木がワンボックスタイプの後部座席で呟く。
「なにがですか?高木さん」
車には高木の他に3人、襲撃をするには見えないほどに軽装である。
高木に至ってはスーツである。
まるで話し合いにでも行くような感じだ。
相手のシマだから、警戒しておけ…そんな程度の軽装だ。
「ふん…『白夜』は慢心してるのさ…いつぞやスライムを、ぶち巻けられたってのに、まるで警戒していない…」
「あ~、でも…ソコは…」
「そうだ、弱小マフィアだったせいもあって、シマを『白夜』に明け渡した…」
「はい…」
「その場は俺も見てたからな」
「でした…ね」
「ソレを仕切ったのが…『
自分に言い聞かせるように話して、高木はタバコを咥えた。
「電子タバコは好きになれねぇ…」
ボソッと呟いて目を閉じた。
高木は考えていた。
(桜さん…なぜマフィアに…)
高木の桜への印象はマフィアとは結びつかない、どちらかと言えば、嫌々『ボトムズ』をやっている人という印象だった。
線が細く、無口で、どこか絶望を潜ませているような、生きることを投げ出しているような男だった。
再会した桜は、スーツに身を包み、以前のように虚ろいを纏うような男ではなかった。
芯が通った様に迷いがない、元々、冷静というか冷酷さは持っていたが、それは躊躇いを振り払うような行動がみせる結果であり、その性格というか本質的な部分から感じるものではなかった。
それがどうだ…再会した桜は、目的も手段も選ばない、ただ効率を重視するだけの機械的な冷酷さを携えてマフィアの幹部として立っていた。
薄汚れた仕事を熟しながらも、その姿は凛として…どこか刹那的な雰囲気は残していた。
(でもね…桜さん、アナタは変わってなかった…むしろ死をより惹き付けていた)
「高木さん…そろそろ…」
車を街の外れで停めて、1人残して、高木達は街へ入った。
「繰り返すが、目的は『
「しかし、実際どうするんですか? 女をさらいますか? 必至に取り返したらしいじゃないですか」
「2度もさらわせたりしないさ…そんな迂闊な男じゃない」
「正面からなんて無理ですよ、あのホテルは武闘派の溜まり場です」
「フッ…マフィア相手に力技なんて愚策だ…桜に小細工は無駄だ、策には策で対抗してくる、元ボトムズにしては頭もキレる…化かし合いで勝てる相手じゃない」
「何か考えているんですよね高木さん」
「あぁ…考えたさ…考え抜いてな、ふりだしに戻ってみた」
「はい?」
「一番シンプルで、一番効果的な方法が、あの男にはハマる…」
「どうするんですか?」
「コレだけでいい、必ず自分独りでホテルから出てくる…」
高木は指で挟んだ便箋をヒラヒラと軽く振ってみせた。
「手紙ですか?」
「あぁ…ただの手紙だ」
「はぁ…高木さんはともかく、俺達、しくじれば後がないんですが…」
「クククッ…心配するな、必ず桜は乗ってくる、小細工には付き合わないが…バカ正直な正攻法には付き合ってくれる」
「どんな男なんです?」
「桜か? そうだな、冷めた負けず嫌い…そんな男だ」
「解りませんよ…」
「まぁ…行けよ、ホテルに届けてこい」
高木は薄く笑っていた。
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