第8章

第49話 凍結

「桜~遅いじゃんかよ~」

 病室に行くとナミがベッドの上で退屈そうな顔で桜を迎える。

「ヒマなんだよ~、なんか!! なんか!!」

 ヒマ潰しができるものを欲しがり桜に手を差し出すナミ。

「ボスから預かった、巻き込んですまなかった…だそうだ」

 桜はナミの手にボスから預かった貴金属を置いた。

「うわぁー、凄いね、綺麗だねー、でも今は要らない…なんか!!」

 適当に高価な貴金属を枕元へジャラッと無造作に置いて、桜に手を伸ばす。

「なんか…か…TVゲームでも用意しようか?」

「ゲーム…簡単なヤツだよ、ナミ難しいの解んないよ、ストレス溜まる」


 桜は笑いながら病室を出て、入口を見張っている下っ端に使いを頼んだ。

「おい、適当な映画のDVDとゲームを用意しろ」

「はい、えっと…桜さん…どんなのがいいんですかね?」

「任せる…」

「はい」

「あっ…おい、ゲームな…簡単なヤツ用意してくれ」

「簡単ですか…あっ、はい」


 下っ端は走って調達へ向かった。

「あっ…おい!!」

 下っ端を呼び止めようとした桜。

(馬鹿野郎…オマエが見張り離れたら、誰が見張るんだよ…ったく…バカが)

 前へ伸ばした右手をゆっくりと戻す桜。

「俺がいればいいのか…」

 再び病室へ戻る桜

「桜? 帰ったんじゃないの?」

「あぁ…もうしばらくいることになった…」


 ………

 岬が老人と話している。

「どうでした? 先生」

「思ったより、真面目そうじゃ、マフィアにしては…な」

 ポケットから冷めきったハンバーガーを出して、ポンッと机に置いた。

「腐ってるんじゃないですか?」

「かもしれん…食わせてやってくれ彼女に」

「素体の名前な…決めたんじゃ」

「名前?」

「オモカゲ」

「面影…ですか?」

「桜…いや影親かげちかには母親の面影があったわい」

「どちらの…なんでしょうね?」

「ん? どういう意味じゃ?」

「素体…いや『オモカゲ』と『桜くん』か…1人の同じ女性の遺伝子を受け継ぐか…面影と親の影とは皮肉というか…フフフ」

「これを因果と言うのじゃよ」

「ドラマチックじゃないですか、やはりこれは、ぜひ桜くんを招かないといけませんね」

「会せるのか、やはり…ワシは気乗りはせんがね」

「先生…教え子の息子さんに会って、躊躇いましたか?」

「会う…逢う…遭う…影親かげちかには遭うになりそうでな…躊躇いもするわい」

「私は、『オモカゲ』の変化を見たいだけです」

「何も起きないかも知れんぞ」

「えぇ、それは今も同じこと…可能性があれば試したい、それが科学者という者じゃないでしょうか?」

「ワシは廃業したんじゃ、マリ・キュリーのようにラジウムに憑りつかれて家族を犠牲にするような真似は出来ん…そこまで『スライム』に食わせる気はないわ」

「そうですか…『学徒』を離れるおつもりで?先生」

「名も無い老人になるだけじゃ…」

「残念です」

 岬はスッとスーツの内ポケットから銃を取り出した。

「連れて行け…」

 部屋のカーテンの裏から高木が現れる。

「高木か…その腕…オマエも『スライム』に憑りつかれるのか…」

 スーツからはみ出る緑色のスライム、高木の左腕にスライムを取り付けられていた。

「なかなか便利ですよ、ワガママなペットみたいなもんですかね」

「躾の効かない野生の獣じゃよ…」

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