第48話 溶解

「そうか…それだけか…」

 桜は冷ややかな視線を『小里 悠里』に向けていた。

 べつに可哀想だとも思わない。

 ナミを狙った理由が自分に無い、それを確認したかっただけだ。

 四肢を切り落とす際にも、部下が幾度となく聞いているが、どうしても自分で確認したかっただけだ。


 桜はひっくり返ったままの『小里 悠里』を起こすことも無く部屋を出た。

「桜さん、その…どうしますか?」

 扉の外で待っていた手下が声を掛ける。

「切った手足は残ってるんだろ?」

「はい…」

「腐る前に、スライムに食わせろ、公開処刑だ…このシマで4人殺した…1人はマフィアの関係者だ、そしてマフィアの女をさらった…見せしめに丁度いい、本人の前で、1本づつスライムに食わせろ、最後に本人も食わせるんだ」

「桜さん…」

「派手にやれ、2度と俺達に逆らうバカを抑制するためにだ、いいな」

「はい」

「場所は任せる、観客を集めろ…祭りのようにな」

 そう言うとフッと笑って、手下の肩をポンッと叩いた。


 桜が立ち去って、残された2人のマフィアは、こう話していた。

「食わせる…本人の前で自分の手足をだぜ」

「しかも、見世物にする気だ…あの人は怖ぇよ」

「ナミさんに手を出されたのが、相当、頭に来たんだな」

「それだけか? あの人…妙にスライムに執着するよな」

「そうか? 元ボトムズだからじゃないのか」

「いや…トラップにも使ってるし、ゴミ処理に使うなんて昔からだが…」

「あぁ、そういえば飼ってるもんなスライム」

「この間の浮浪者だって、スライムを見たら客扱いしろ!!だしな」

「色々、考えるよな…まったく…」

「とりあえず、それまでは、あの女も生かしておかなくちゃならないってことだ…舌噛ませないようにギャグボールハメておけよ」


『小里 悠里』は、5日後にホテル裏の公園で処刑された。

 大勢の目の前で、自分の手足を1本づつスライムに食われる様子を笑いながら見ていた。

 最後はスライムに自身も食われたわけだが…

 手足を食われているまでは、集まった連中も興奮していたが、さすがに手足を切り取られた『小里 悠里』が食われる姿には声を失い、呆然と眺めているだけだった。


「桜…ご苦労だったな」

 ボスに呼び出された桜は、当日、公園には行けなかった。

「いえ…ある意味、内輪の不始末ですから」

「そうとも言えるね」

「桜、キミはスライムを使うのが好きなようだね」

「特に深い意味はありません、後始末が楽なだけです」

「そうか…キミは元ボトムズだ、スライムの扱いには長けているのだろうが…まぁ…ほどほどにな、それだけだ…あぁ、キミの彼女に、今回はコチラの不手際で傷を残してしまった」

「いえ…」

「看護婦とはいえ、マフィアの関係者には違いない…これは、お詫びだ、渡してくれ」

 ボスは桜に何点かの高価な貴金属を手渡した。

「お預かりします…今回は、御迷惑をお掛けしたのに…すいません」

「気に掛けることはない、キミが看護婦を採用したわけでもないだろう」

「失礼します」


 桜はボスの部屋を出て、エレベーターに乗った。

(何が言いたかったんだ…ボスは…)


 桜は考えていた。

 まさか礼を言う為に呼ばれたんじゃないだろう…ましてナミを気遣うなど在りえない。

(俺がスライムに執着している…か…)

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