第47話 激情

「ナミ…大丈夫か?」

 桜は医師の乗る車に乗り込んだ。

「桜…桜…怖かったよ~、痛かったよ~」

 止血を終え、輸血をされたままナミは桜に抱き付こうと手を伸ばす。

「あぁ…もう大丈夫だ…」

 桜がナミの手を強く握る。

「先生…ナミは?」

「大丈夫ですよ桜さん、応急処置が的確だ…刺す場所も急所を外している、解剖の知識でもあったのか…偶然とは思えないね」

「そうですか…よろしくお願いします」

「大丈夫ですよ、2週間もすれば元気になります」


 ホテルに戻った桜は、ナミの個室を用意した。

 24時間監視付きで看護婦を常駐させて、桜も毎日、顔を出した。

「桜、どうしてナミの場所が解ったの?」

「ん…」

 居場所が掴めなかったのは看護婦2名だった。

 ナミを連れ出した『小里 悠里』は、マフィア所有の車を使ってナミを連れ出していた。

 マフィアの車を借りれるのは、当然、マフィアの関係者だけだ。

 そして車には全て発信機が取り付けられている。

『誰』を特定して車を使用している、それさえ解れば、追跡は容易だった

 ナミには話してないが行方が掴めなかった、もう1人の看護婦は、アパートで発見された。

 彼女は頭部を残して、解体されるように切り刻まれ、内臓も綺麗に取り出されていた。

 ベッドに飾られるように内臓は並べられていたという。

 手足は切り取られ、腹は裂かれ、最初は殺されたように思えなかったと桜は報告を受けている。

「腐臭は凄かったけど…そのなんというか…魚を解体したような、殺しの現場とは思えませんでした、いや変な話なんですけど…」

 発見したマフィアは凄惨さより、手術にでも立ち会ったような変な感覚を覚えたらしい。


 ………

「さて…『小里 悠里』さん…話してもらおうか?」

「なにを?」

 車いすに置かれた『小里 悠里』、すでに手足は無く、包帯で車いすに身体を縛り付けられている。

「オマエが『切り裂きジャック』か?」

「さぁ? そう呼ばれるのは好きじゃないわ」

「娼婦殺しは認めるということだな」

「3人は…」

「4人じゃないのか?」

「1人は看護婦よ、娼婦じゃない」

「ふっ…そうだったな…」

 桜の表情が一瞬緩んだ。

「聞きたいのは、殺しの動機じゃない…そんなもんに興味は無い、オマエ、なぜナミをさらった?」

「なぜ? 殺すつもりだったからよ」

 桜の表情が変わった。

 と同時に『小里 悠里』の顔面を正面から思い切り蹴り倒す。

 ガシャン…そのままひっくり返る『小里 悠里』

 天上を見上げたまま、ニヘラッと笑った。

 手足を切断され、汚い包帯に包まれ、脂ぎった長い髪、垢と血で汚れた顔が不気味に笑う。

 酷く醜悪な姿だ。

「わたしを…なんで生かしておくの?」

「ん? 死にたいのか?」

「さぁ? もう解らないわ…殺せないと諦めたら、死にたいか生きたいか、それも解らない…」

「もう一度だけ聞く…これは俺の興味だ、答えたくなければそれでいい」

 一呼吸開けて桜が低い声で聞いた。

「なぜナミを狙った?」

 またニタッと笑って『小里 悠里』は答えた。

「羨ましかった…だから許せなかった、友達になりたかったから…でもなれないから…羨ましい、あの子…わたしは、誰も助けてもらえなかったのに…」

 汚れた涙が床に零れた…



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