第46話 吐露
「ホント、バカみたい!!」
ナミがハンドルに伏せたままの看護婦を思い切り蹴った。
低く声をあげて、ドアに身体をぶつける看護婦。
ナミは看護婦のメスを奪おうとして飛びかかった。
「生きたいなんて思ってないけど、アンタに殺されたくはない!!」
それまで、ボンヤリと生きてきたナミからは考えられない言葉と行動、看護婦が、少し意外そうな表情を見せた。
フッ!!
ナミの目に唾を吐きかける看護婦。
「キャッ!!」
思わずナミが目を押さえた、その瞬間、ナミの首に手を掛ける看護婦。
「顔は綺麗なまま…そう言ったじゃない…身体はバラバラとも言ったけど」
ナミの腹部にメスが突き刺さる。
「グッ…カハッ…」
ナミが狭い車内で再び看護婦から離れようと上体を起こす。
「困ったわ…しばらく大人しくしていてもらうわよ」
看護婦はナミの手足を縛って、シートベルトで身体を固定した。
止血の応急処置を施し、再び車を走らせる。
(桜…助けて…この人…おかしいよ)
………
車が停車した。
意識が朦朧としているが、ここが海の近くだということは解った。
波の音、潮の香り…
ナミは潮風をこれほど不快に感じたことが無かった。
日本海は深い緑色をうねらせて、澱んでいるように思えた。
「ナミさん、目を開けて…」
看護婦が子供をあやす様に話しかける。
その表情は穏やかなまま、外へ回り助手席側のドアを開けると乱暴にナミを外へ引きずり出した。
混濁としたしたナミの意識、車酔いもあったのかもしれない、ナミは潮の香りに咽た。
(気持ち悪い…腐ったような臭いがする…)
まるで海の生き物が全て腐って浮いているような錯覚を覚える。
「大丈夫よ、死にはしないから…すぐにはね、わたしね、アナタ達とゆっくり話がしてみたかったの、それまでは、あまりそんな余裕なくて、すぐ殺しちゃったから…此処なら大丈夫よ、誰も来ないわ」
「何も…何も喋ってなんかやんない…ゴホッ…」
苦しそうにナミは言葉を搾る様に話し、看護婦に舌を出す。
「友達にはなれないのよね…」
メスを取り出した看護婦が悲しそうな顔でナミを見つめる。
視線がナミの細い足に向けられた。
「わたしの足は、こんなに細くも長くも無い…」
ップ…
メスがナミの太ももに刺さる。
「イタッ…」
「可哀想…足が痛いのね、でも大丈夫、すぐ足は痛くなくなるわ…足が無くなれば」
メスを引き抜いて、ナミの太ももにメスをツツツ…と這わす。
どこから切ろうか迷っているように…
(桜…怖いよ…)
タンッ!!
看護婦の上体が弾かれるように横に傾いた。
「無事か? ナミ!!」
クルッと声の方を振り向くと桜が銃を構えていた。
「桜? さくらー!!」
「離れろ!!」
数名のマフィアが看護婦の元へ走って行く。
「ナミさん」
桜の側近がナミを看護婦から遠ざける。
車には医師が待機しており、ナミはすぐに治療を受けられた。
「桜さん…この女どうしますか?」
「まだ息があるんだな…」
桜が横たわり、手足を押さえ付けらえれている看護婦を見下ろす。
その目は恐ろしく冷たい。
タンッ…タンッ…
桜が看護婦の足を撃ち抜いた。
「ナミの足を切り落とそうとしていたな…オマエ…」
看護婦が怯えたように桜を見上げる。
視線を見返し
静かに桜が支持を出す。
「殺さずに連れていけ…車に乗せろ」
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