第43話 花蝶
「高木…左腕が欲しくないか?」
「なんです?岬さん」
「片腕じゃ何かと不便だろうと思ってね…クククッ」
右手でフォアグラを鷲掴みで食べる高木を楽しげに見ている岬。
使えないのを解っていて、高木を食事に招くときは必ず洋食である。
嫌味にちゃんとナイフとフォークが一式用意されているあたりに、岬の性格が表れている。
「慣れれば問題ありませんよ、いつもクロスを汚してしまって恐縮です」
言葉では
「ときに高木、キミは『スライム』の意味を知っているか?」
「意味?」
高木の脳裏にフラッシュバックが走る。
食われた左腕…水槽の中で自分を観察するかのような人型のスライム…『素体』無意識に高木の右手がテーブルクロスをギュッと強く握る。
「
「面影・液体・交換・造る・抽出…」
高木が呟く。
「面影を抽出して交換して造りだされる液体…まぁ後付だがね、最初からソレは『スライム』と呼ばれていたよ…『
「で?」
高木の右手が震えている、しかし握り込んだテーブルクロスを放さない…いや放せない。
強張る様に強く…強く…握りつぶすように力が込められる。
努めて平静を装おうと荒くなる呼吸を抑えように深呼吸を繰り返す。
「高木、キミは『スライム』に対して複雑な感情を持っているようだね」
「……そんなことは…」
「隠さなくていい、その左腕…スライムに食われたと聞くしな」
「………」
高木の右手が震えだす。
「話を戻そう…高木、キミは左腕が欲しくは無いか?」
「クククッ…生やしてくれるのか?」
「キミは勘がいいようだ」
「バカなことを…からかっているんだろう?」
「スライムの『S』はシルエット…そのものではないがね…試してみるか?」
「選択させる気など無いのでしょう…やればいいさ…俺は、そのために居るのだろう?」
「キミは本当に勘がいい」
………
「桜さん、あの爺様、返して良かったのですか?」
「あぁ…此処に留めて置く理由も無い、それに…時期が来れば、また来るさ」
「はぁ?」
「そんな気がするんだ…無理に留まらせても、有益な関係は築けそうにない…そんなタイプだよ、あの爺さんは…だからいい、来たいときに来て、喋りたいことを喋らせればいい」
「有益なことでも?」
「あった…と思いたいね…ハンバーガーで口を開くんだ、安いもんだろ?」
「まぁ…見返りとしてはですが…」
「比べるまでも無くコチラ側に有利な条件だよ、あの爺さんの話は、少なくても俺にとってはな」
そう言うと桜は、左手で手下のマフィアを部屋から出した。
ふぅ~とため息を吐いて、自室へ戻る。
ドアを閉めると同時にネクタイを緩め、もう一度大きくため息を吐く。
「ナミ」
見当たらないナミの名を呼んでみる桜。
「いないのか?」
部屋にはナミの姿は無かった。
テーブルにメモが置いてあった。
『呼ばれて検査だから、ちょっと行ってくるね』
(誰に呼ばれたかとか…何処に行くとか…まったく書いてない…)
「困ったもんだね…」
そして、ナミは深夜になっても戻って来ず…連絡も無かった。
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