第42話 雪月
「ひとつめの質問だ、あの『スライム』…『ゼロ』は、どこで手に入れた?」
桜がハンバーガーを食べてみせる。
「美味いぞ…なかなか」
「……研究所にな…持ち込まれたんじゃ」
「研究所?」
「よこさんか!! ハンバガ!!」
桜が爺さんにハンバーガーを渡す。
「久しぶりじゃ…美味い…美味い…」
爺さんは何本か抜けた歯でフガフガとハンバーガーを食べる。
桜は爺さんを興味深そうに眺めている。
(研究所? この爺さん何者だ?)
桜は慎重に質問を選んでいた…腹いっぱいになれば、コイツは何も喋らなくなる…あと3つくらいが限界だろう…ひとつの質問で複数の解を得られる聞き方を考えていた。
「爺さん、オマエは何を研究していた?」
桜の2つ目の質問だった。
「ワシか? ワシの研究は鉱物だ…隕石に付いてたんじゃ『ゼロ』は」
爺さんが手を桜の前に差し出す。
(隕石だと? スライムは飛来したのか…宇宙から?)
桜が爺さんの手にポンッとハンバーガーを乗せる。
「爺さん…スライムは宇宙から?」
(チッ!! しまった…焦った…)
同じ質問を繰り返した愚かな自分に思わず舌打ちした。
「解らん…隕石に付いてただけじゃ…どこで付いたかなんて誰にも解らん」
「そうか…爺さん、アンタ…何しに来た?」
桜は爺さんを睨むように見ている。
「オマエさんに『ゼロ』を渡しに…」
「ボケたような態度はフリだな…誰に頼まれた?」
ハンバーガーをポイッと爺さんに投げて渡す。
「言えんな…」
「ほう…」
桜がスッとバタフライナイフを取り出す。
「嘘は言っとらんつもりだがの」
「ふん…そうだな…」
「マフィアにしては正直な男じゃな…オマエさん」
「そうかい?」
指に付いたケチャップを舐めながら爺さんはニヤニヤと笑っている。
「…『ゼロ』は最初のスライムじゃ、純粋な『スライム』…この地球の何者も摂り込んでいない…だから『ゼロ』…」
「興味深いね…どうりで…濁りが無いように見えたわけだ…」
「興味があるか? 『ゼロ』に…もう少し話してやろう、サービスじゃぞ」
「サービスか…ポテトでも付けようか?」
「今は結構じゃ」
一呼吸置いて爺さんは話し出した。
「………ということじゃ…『素体』から産まれ、人間の遺伝子情報を持ちながらヒトに成れない粗悪品、分裂を繰り返し様々な遺伝子情報を食い漁る…それだけの存在じゃ…」
そういうと、大きくため息を吐いてソファから立ち上がった。
「ヒトに成れない…そんなことないさ…何かに成りたくて、他の命を食い散らかしながら増え続ける…人そのものじゃないか」
桜はニコッと笑って、ハンバーガーを爺さんに投げた。
「面白い話を聞けたよ」
ハンバーガーをコートのポケットに押し込んで爺さんは桜に1歩近づいた。
「ヒャヒャヒャ…オマエさん面白いの~ ホレ…コレをやろう」
爺さんは『ゼロ』の入った小瓶を桜に投げた。
「いいのか? ハンバーガーはもう無いぜ」
「スマイル0円…でいいわい、クソみたいな時代じゃったが…ワシは、あの時代が懐かしいの~」
爺さんは振り返らないまま手を軽く上げて出て行った。
「…『素体』か…」
(…にしても『スライム』が最初に摂り込んだのが爺さんの助手だった女か…最もヒトに近づいた『スライム』…『素体』か)
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