第38話 特異

「来ますかね?」

「来てもらわなきゃ困る…し…来るな、面子もある、おそらく話し合いに来る…」

「話しあい?」

「あぁ…俺達を殺したら、それこそ抗争になる…どの選択肢も不自由な結果しか生まない…ならば話しあいしかないだろ」

「そういうもんですか…」

「そういうもんだ…平和的な解決なぞ、すでに無くなっているんだ…そろそろ準備しておけよ」

 俺はトラックを指さした。

「はい…」

 ドライバーはトラックを移動させるために走って行った。


 トラックを壁にする。

 荷台にはドライバー2名とボトムズ2名を配置させる。

『盾』は左右に3名づつ、後方に4名、俺と、もう1人『ボトムズ』は後方の警戒、トラックの4名も左右と正面を警戒させる。


「どうせ交渉になる…警戒なんて無意味だがな…」


 配置に着いて2時間、正面からセダンが2台近づいてくる。

 少し距離を取って停車して、手を上げたまま『マフィア』が6名降りてきた。

「こちらに敵意はない!! まずはソチラの意向を聞かせてもらいたい!!」

「ご足労頂いて恐縮です…榊さんですね、初めまして、桜と申します、当方の意向は伝わっていると思いますが?」

「聞いている…が!! はい、解りましたとは言えない!!」

「残念です…では、不本意な方法を取らざるを得ませんが…よろしいですか?」

「桜と言ったな、たった20人程度を囲むこと、弱小マフィアとはいえ、容易なことだぞ」

「でしょうね…私が定刻に戻らなければ、本隊が動くまで…私はメッセンジャーに過ぎない、殺したくば殺してもらって構わない…多少の抵抗はしますがね」

 桜が手を上げると、榊の乗ってきた車が炎に包まれた。

 しばらくすると、ボンッと音を立てて爆発する。

「解った…最初に言った通りだ、敵意はない…」

「榊さん…身柄を預けてもらいますよ」

「あぁ…」

 榊は手を上げたままコチラ側に歩いてくる。

 残りの5人が少し後ろを歩いてくる。

 桜は手で榊以外のマフィアの接近を拒んだ。

 チラッと後ろを見て、従えと無言で指示する榊。


 榊が手錠をハメられてトラックに押し込まれた。

 それを確認した桜は、スッと左手を上げて、ヒュッと空を切る様に降ろした。

 トラックの『ボトムズ』が残った『マフィア』に炎を浴びせる。


「なっ!!」

 榊が目を剥いて、もがき苦しみ、地に転がる部下を見ている。

「貴様!! 桜!! 何をする!!」

 榊が身を乗り出し桜を睨みつける。

「何を? さぁ? 俺は何もしたいことなどない…オマエにはあるのか?」

 そう言ってウィンドウ越しに榊の目を見据えた桜の目は、精気を無くした目。

 まるで闇を覗くかのような錯覚を覚えた榊は唾を飲み込んだ。


(コイツ…感情が無いのか? それとも壊れてるのか?)


「なるほど…桜さんか…久しぶりだ」

 その様子を影から見ていた片腕の男。

「高木さん?」

 走り去るトラックから見える場所へ歩き出した高木。

 桜と目が合った。


「ん?」

 片腕の男に気付いた桜。

(どこかで……高木…か?)

 確認しようと後方に振り返る桜。


 高木の後ろ姿しか見えなかった…


「桜さん…近いうちに挨拶に伺いますよ…」




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