第37話 対峙

「桜、気を付けてね」

 ナミが桜を部屋から見送る。

「あぁ…」

 いつもより長く唇を重ねて、少しの間ナミを抱きしめる。

 長い黒髪…

 一瞬クラッと眩暈が桜を襲う。

「行ってくる…もし…」

「もしは…聞かないよ…ワタシ」

「……そうか…そうだな…」

 桜は部屋を出てフロントへ向かう。

「よう…久しぶりだな」

 装備を管理する爺さんが懐かしそうに桜に話しかけた。

「あぁ…また、アレを背負うとはね」

 皮肉な笑みを浮かべる桜。

 火炎放射器の重さが懐かしく感じる。

 桜は久しぶりに『ボトムズ』として装備を纏いホテルの地下駐車場にいた。


『ボトムズ』は全員で4名、桜の他3名が少し遅れて合流してきた。

 無理にテンションを上げようとしているのか、皆、バカみたいな大声で話したり、笑ったりしている、それが逆に痛々しい。

 トラックは2台、『盾』は10人、それなりの『スライム』が確認されている、それほどの数だ。

 だが…実際は『スライム』が目的ではない。

 いや…いても、いなくてもいいんだ。

 俺達が、あの場所で狩りをする、それだけでいい。

 派手なほどいい。


 そういう意味では、コイツ達のような馬鹿はしゃぎするタイプは人選的に大当たりなのかもしれない。


「今夜は…夜が明けるまで派手に暴れろ!!」

 俺はトラックに乗り込むとき『ボトムズ』に発破をかけた。

「おおぅぁああああー」

 1人馬鹿が叫んで、1人は自分の頬をバシッと両手で挟むように叩く…そして黙って乗り込むヤツが1人。


 トラックが現地に着くと、すでに『マフィア』が待っていた。

 自分の縄張りに軍用トラックが乗り付けたのだ、警戒しないはずはない。

 まして、『スライム』をぶちまける様な事件も起きているのだ、当然のお出迎えというわけだ。

「桜さん…」

「ん?」

「どうしましょうか?」

「撃てよ…それ以外の対応があれば教えてくれ」

「はい?」

「撃てよ!! 撃たれる前に撃てバカ!!」

 俺はドライバーに怒鳴った。

 運転するだけでいいなんて思ってる気楽な連中、たまには命を張ってもらおう。

「ブレーキ踏んで撃つか、でなきゃ轢き殺せ、俺はどっちでも構わん」

「えっ…えっ…」

 ガイーンッ!!

『マフィア』が発砲してきた、弾はミラーに弾かれたが…いい腕だ。

「ヒャッ…」

 ドライバーは小さく悲鳴を上げて、アクセルを踏んだ。

 グンッとトラックが加速する。

 後続のトラックも、それに習って加速した。

「轢き殺す派か? オマエ」

「うわぁぁぁ」

 ハンドルにしがみつく様に運転するドライバー、シートの後方にぶら下がっている自動小銃を俺は掴んだ。

「おい…せめて目は開けてくれよ、事故死は嫌だぜ」

 俺はセーフティーを外して窓を開け『マフィア』に銃口を向ける。

 タララッラララ…

 子気味音と振動が腕に伝わる。

『マフィア』が数人、踊る様に倒れ、ソレをガタンッとトラックが轢いて突破した。

「おい…停めろ…」

 加速し続けるトラックを停車させて、俺はトラックを降りた。

 少し歩いて『マフィア』の前に立つ。

「俺は、桜…お前等のボスに伝えろ!! 縄張りを差し出すか、それとも死んで奪われるか? 選べとな…明朝までココで待つ」

「バカか…オマエ?」

 俺は背負っていた火炎放射器を構え、躊躇なく『マフィア』に向けて炎を放った。

 数人の『マフィア』が火だるまになって、のた打ち回る。

「ココで全員殺すと…自分で行かなきゃならないんだ…面倒くさいから頼むよ」



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