第36話 遂行

(マフィアの業務なんて、こんなものか…)

 縄張りを見回り、ショバ代を回収する。

 揉め事があれば仲介に入り、仲介料を貰う。

 揉め事が無ければ…起こして仲介料を貰う。


 まぁ、歩けば金になるというシステムが出来上がっているわけだ。

 回収した金の半分が俺の取り分になる。

 金が無くなったら街を歩けばいい、バカでもできる仕事だ。


「桜さん!!」

 叫んで俺の背中を押した男が倒れた。

 俺を刺しに来た男の盾になったのだ。

 たまに、こういう事もある、『ボトムズ』のときも『盾』がいたが、『マフィア』も変わらない。

 違うのは、使い捨てにされるか否か…

「死なすな…とっとと連れてけ!!」

 使い捨てにするか否かは、俺次第、そこのところは変わりはしないが、こういう優秀な『盾』は傍に置いておきたい。


 こんな誰でも出来る仕事ばかりならいいのだが…


「桜、最近『ボトムズ』の方、あがりが悪いな…」

「そうですか」

「ボスも気にしている…よろしくあたれ」

 ポンッと俺の肩を叩いて出て行く男はボスの側近だ。

「はい」

「オマエ…『スライム』に詳しいから、『ボトムズ』を仕切らせてんだぞ…上手く扱え!! ボトムズ上がりが!!」

「………」


 バンッとドアが強く閉められる。

「ボトムズ上がりか…その通りだよ…」

 デスクの万年筆をガッと掴み、その先がグニャッと曲げるほど押し付ける。


『スライム』が希少な鉱物や貴金属を貯め込んでいると思うのは『スライム』を見た事もない連中だけだ。

 奴らは好きで鉱物を溜めこんでいるわけじゃない、むしろイレギュラーなんだ。

 奴らは、ただ生きるために食い物を探しているだけだ。

 俺達と変わらない。

 今日を生きるために這いずり回っているだけだ。

 その過程で食えない貴金属まで貯め込んじまう、俺達が金を貯め込むのと同じ…

(はっ…俺もスライムと変わりねぇ…)

 掃溜めから産まれた不細工な遺伝子のカスだってことだ。


 俺は壁の隅に置いてある水槽を眺める。

 グヂュグヂュと震えるように蠢く1匹の小さな『スライム』

 観賞用に少し千切って飼っている。

 蜘蛛やトカゲを食わせるだけで、そう大きくはならない、なったら処理場に戻せばいい。

 この『スライム』もソコから持ち出した。


『処理場』は死体やらゴミを処理するためにある工場跡地だ。

 処理に困る有機物は、ソコで飼われている『スライム』に処理を任せている。

 ソコも俺の管轄だ。


『スライム』の毒々しい色合いもサイケデリックな装飾だと思えばインテリアにもなる。

 いや…それ以上に俺は無意識に感情移入していたのかもしれない。


 桜は受話器を取って下の階層へ内線を入れる。

「俺だ…4日後だったな『スライム』を狩りに行くのは?…俺も行く…あぁ…そうだ…『ボトムズ』としてだ…準備しておけ」


 郊外の工場区、それは他の『マフィア』の縄張り、ソコを襲う計画だった。

 それは当然、抗争の火種になる『スライム狩り』

 狩りの報酬など2の次だ。


「そうか…桜が自ら現場にね…構わないさ、コレは彼からの提案なんだからね」


 すでに頭打ちにきている『スライム』でのビジネス、桜は乱立する『マフィア』を統合しようとしていた。

 小さな組織なら組み込み…大きな組織なら内側から摂り込んでいく…。

「桜…キミは『スライム』と何ら変わらない…」

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