第35話 湾曲

「あの男…高木…『スライム』に対する強い恐怖は拭えないようです」

「なにかしたのかね?」

「いえ…素体を見せたのです…」

「素体を? なぜ?」

「本人の希望です」

「聞いているのは、そういうことじゃない、なぜ高木は素体の事を知っているのだ?」

「それが…高木はデータベースにアクセスしたようでして…」

「ほう…どこから?」

「それが…申し上げ難いのですが…」

「言いたまえ」

「ココからです…この部屋のパソコンから彼はアクセスしています…」

「ほう…どういうことだろうね?」

「……岬さま…あなたの手引きでは?」

「なるほど…そう考えるのが自然か…」

「高木…彼が、ココに来て、アナタのパソコンを操作することは現実的に無理だと思うのですが」

「うん…そのとおりだ」

「なぜ? なぜ高木に素体の情報を?」



 ………

「教えてくれ…俺の腕を食ったアイツ達は何なんだ?」

 部屋から出れるようになった高木は、岬の部屋を訪ねていた。

「資料は読んだ、いくつか解らないことがある、いや…何も解らない…解ったのは、日本が第二次世界大戦後、国連…及びアメリカの実験場になっていたという事実は理解した、その歴史の延長上に『スライム』の日本投入という事実があった…この国の政治的崩壊は…仕組まれたものだった…」

「高木…『スライム』は何のために投入されたのか解るか?」

「……ゴミ処理場にするため…」

「それだけのためではない…無機物を残し、有機物だけを処理する生物、世界のゴミ処理を目的に島国ひとつを選んだ…そこまでは理解できるさ…この世界は捨てる物を間違った…そうは思わないか?」

「捨てる物…ゴミの分別を間違ったということか?」

「ハハハ…言い得て妙というヤツだ、消し去るべきは…生命なのだろうか?」

 高木は無意識に無くなった左腕を押さえるような仕草を見せた。

「その腕は…無くなるべき物だったのか?」

 岬は高木の無くなった左腕を指さした。

「知りたくば、この部屋に自由に立ち入ることを許そう…だが…知れば引き返せない…その覚悟があれば、閲覧を許そう」

 岬は自身のパソコンに視線を移した。


 ………

「うわぁぁぁぁぁ」

「高木…おい高木!!」


 高木は地下室にいた。

 5m四方の強化ガラスの立方体の中で『素体』

 髪の長い女性のようなシルエット、立ち上がり高木に近づく。

 高木は右手でガラスを殴った…幾度も…幾度も…

 警備員が駆け付け取り押さえる際に、高木は警備員の指を食いちぎった。

「殺してやる…殺してやる…」

 呟きながら、高木は指をグジグジと噛み、ゴクンッと飲み込んで笑った。


 女性の外観を持つ『素体』はガラスに手を付いて、その様子を観ているようだった。


 ………

「あの『素体』こそ、最初の『SLIME』…唯一の存在なんだ、アレが『学徒』に在る限り我々の優位は揺るがない」

 岬は椅子に座り足を組んだ。

「高木は、真実を歪んだまま知った…先兵として使えるだろう、『ボトムズ』を狩らせたまえ…『スライム』の価値を知らん『マフィア』では、この国は仕切れんよ」

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