第32話 喪失
「クソッ…」
無くしたはずの左腕が痛む…
無意識に右腕で左腕を押さえようとして掌が空を切る。
(なんで痛ぇんだよ!!)
苛立って椅子を蹴りあげる。
「高木さん、どうしたんですか?」
「なんでもねぇよ!!」
俺はイラついて咥えていた電子タバコを右手で握って部下に投げつけた。
「ちょっ…やめてくださいよ」
「おい…知ってるか?」
「なんですか?」
「その電子タバコな、昔はシェアの94%は、この日本だったんだ…なんでだと思う?」
「はい? アレじゃないですか…健康にウルサイ国だからとか?」
「バカ…健康に疎い国だからだよ…オマエ『
「はぁ…中卒なもんで…」
電子タバコは無害?
そんなわけねぇだろ…
なんで日本だけに集中して急速にシェアを伸ばしたのか?
タバコ、アルコールの依存度を知りながら税収のために規制を掛けない国だから…
実験場にされたんだよ…また…
ナパームの実験場にされて…原子爆弾の実験場にされて…戦争が終わっても、この小さな東方の敗戦国は、先進国の実験場なんだ、いつまでも…いつまでも…今でも。
1度でも這いつくばれば…もう頭を上げることなど許されない。
この国は…頭を垂れたのだ…そして、勝者に許しを請い、国民を売った。
存続と引き換えに…。
部下を部屋から出して、しばらく一人になって昔を思い出す。
(イテェ…)
どうしても無くした左腕が痛む、幻肢痛は昔の事を思い出すと決まって襲ってくる。
あの夜…『スライム』に食われた左腕…焼けるような痛みに耐えきれず、自ら引き千切って逃げた…骨が溶かされる感覚が恐ろしかった。
怖い…痛い…繰り返し襲い掛かる恐怖から逃げた。
意識はあったはずだ、気づけばトラックの荷台で寝転がっていた。
肩口から残った肉を切り落とされて、目が覚めればベッドの上だった。
「僕の腕は…」
医者は何も言わず、その代わりに水差しからコップに水を注いで僕に差し出したスーツの男が口を開いた。
「復讐したいか?」
「復讐?」
「キミを囮にした『ボトムズ』に…」
「ボトムズ…」
男はスッと写真を差し出した。
「……キミと同じチームだったんじゃないか?」
「……あぁ…桜さん…だ」
「彼がキミを見捨てたんだよ…高木くん」
「アンタ達は?」
「我々は、『
「先兵?」
「今は休みたまえ…傷が癒えるまで、これでも読んでいるといい、キミが我々の同志となるなら…この国の真実を話そう、興味が無ければ、此処を去って構わない」
「真実…」
「……日本人という世界のモルモットのな…この島国は檻なのだよ」
「おい!!」
「まずは傷を癒せ…気が向いたら、ソレを読んでみるといい…また来るよ、傷が癒える頃に」
スーツの男は部屋を出て行った。
あれから何か月が過ぎた…
(コイツが…俺に真実を語る…)
コンッとスライムが入った水槽を指で弾く。
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