第五章

第27話 密約

「で…運び人は?」

「殺されました」

「積荷は?」

「すり替えられたようで…」

「空っぽの『スライム』をぶちまけられたと…」

「はい…」

「手配したのは誰だ?」

「あの…私です…申し訳ありません」

「なに…気にするな、仕方のないこともあるものだ」

「……はい」

「いいよ…下がっていい」


 最上階のスゥィートで『ボス』と呼ばれる男が独り、高そうなスーツのジャケットを無造作に机に放り投げる。

(使えないな…)


 ホテルの電話の受話器を上げる。

「……あぁ…せめて『ボトムズ』の……散々、こき使ってきたんだ……恩返しも必要だろう…人として、恩を仇で返すような真似はしちゃならないと思うよ…私は…」

 受話器を置いて、タバコに火を点ける。

(恩を仇で返されてはね…)


 桜のスマホにメールが入る。

「今夜23時 出動」


(何も変わりはしない…)

 今夜も『スライム』を狩り行く、それだけのこと。

 他にやることを知らない。

 縁は無かったが、サラリーマンってこんな感じなのだったのだろうか?

 正直な所、会社員でも無かったし、もちろん兵士でもない。

 俺は…何だったんだ?

 何をやっているんだ…俺は何なんだ。


 10分前にロビーへ着いた、いつものように火炎放射器を受け取る。

「新型だってよ」

「確かに小さくなってるな」

「威力と持続時間は伸びてるんだってよ」

「フッ…より長く帰ってくるなってことか?」

「ハハハ…帰って来れれば帰ってこい、帰れねぇヤツも出るんだからよ」

「お前等が心配してるのはコイツの回収だけだろ」

「だから生還率の高いヤツに回すんだろ」

「返却率の間違いだろ?」


 トラックには『盾』が2人。

「何?」

『ボトムズ』は俺1人だった。

「どういうことだ?」

 俺はトラックのドライバーに尋ねた。

「さぁな…」

「ふざけるな!!」

「いいから乗れよ、命令なんだろ? 俺もオマエも…コイツ等もよ」

 ドライバーが『盾』を指さす。

「考え方だ…お前1人に『盾』2人だ、贅沢じゃねぇか」

 俺はドアを乱暴に閉めてトラックに乗り込んだ。


 しばらく揺られて降ろされた先に『スライム』が1体…

「あれがターゲットだそうだ、回収は必要ない」

「なに?」

「駆逐だけでいいそうだ」

「それで俺1人ってことか」

「まぁソイツのテストでもあるんだ…しっかり頼むぜ、朝には迎えに来るからよ、食われんなよ」

 新型の火炎放射器を指さす運転手。

 トラックの荷台から蹴り落とされるように『盾』も降ろされた。


「俺は…俺は…」

「うるさいんだよ!! テメェが元なんだって関係ねぇんだ、今はただの『盾』なんだからよ!!」


 やたらと喚く『盾』が1人…良く見ればスーツなんか着ている。

「おい、うるさい…『スライム』を刺激するな…」

「あっ!? 『ボトムズ』風情が俺に命令するな!!」

(なんなんだコイツは?)


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